マーケティング内製化の進め方|何を社内に移し、外部とどう組むか

マーケティング内製化の進め方|何を社内に移し、外部とどう組むか

目次

代理店や支援会社にマーケティングを任せて何年かたつと、「代理店さんへの不満はないのですが、このまま外に任せ続けることへの不安はあります」という迷いが出てくることがあります。フリーランスのマーケターを企業につなぐサービス(Expert Partners Marketing)の事業部長が、広告運用を代理店に任せて2年になる会社の担当者から聞いた言葉として、noteに書いています。手数料の分を自社で使えないか、ノウハウを社内に残せないかと考えたとき、全部を社内に移すのか、一部だけなのかで、準備することが変わります。

公開されている調査では、マーケティングをすべて社内でやっている人より、一部を社内でやり、残りを外部に任せている人のほうが多くなっています。どこまで社内に移すにしても、先に社内に置くのは、外部や担当者に任せる範囲を決める責任者と、広告アカウントやデータです。

この記事では、どこまで社内に移す場合でも社内に置くもの、業務ごとに社内と外部のどちらに置くか、作業まで社内に移せるかの見極め、外部と組む形の選び方、移す順番と外部に戻す判断を、自社に当てはめて決められるようにまとめました。2026年10月時点で公開されている調査と各社の説明を、デジタル化の窓口編集部が確認した範囲で使っています。

マーケティングの内製化(インハウス化)とは

マーケティングの内製化は、広告代理店や制作会社、コンサルティング会社に任せていたマーケティングの業務を、社内の人が受け持つようにすることです。インハウス化、インハウスマーケティングとも呼ばれます。

どこまでを指すかは、会社や記事によって違います。中小企業のマーケティングを支援するGuideRunnerは、自社の解説で、「インハウスマーケティング」という言葉は「特に広告運用やSNS運用など、実務的な業務範囲を指して使われる場面が多い傾向があります」と書いています。この記事では、広告運用、SEOとコンテンツ、SNS、メールとMA、分析といったデジタルマーケティングの業務を中心に扱います。

すべてを社内でやる人より、一部を社内でやる人が多い

広告運用の調査でも、マーケティング業務全体の調査でも、一部だけを社内でやっている人が、すべてを社内でやっている人より多くなっています。

調査(対象・時期)

すべて社内

一部を社内

富士フイルムビジネスイノベーション(Web広告の運用に携わるマーケティング担当者500名、2024年9月)

30.0%

53.0%

ナイル(マーケティング担当者506名、2023年11月)

24.5%

63.7%(外注がメインで一部内製 37%と、内製がメインで一部外注 26.7%の合計)

テスティファイ(EC・SaaS・BtoB企業の経営層・マーケティング担当・広告運用担当1,016人、2026年5月)

8.4%

54.4%(代理店への委託と自社運用を併用)

どれも回答者の割合で、会社の数ではありません。富士フイルムビジネスイノベーションとテスティファイは広告運用についての調査です。3社とも、マーケティングのツールや支援サービスを提供している会社の調査で、結果は自社サービスの紹介とあわせて公開されています。テスティファイの数字は、リリースのグラフから読み取りました。

海外では、米国の全米広告主協会(ANA)が2023年に行った調査(162人が回答)で、92%が社内の組織に加えて外部の代理店も使っていると答えています。同じ調査で、65%は過去3年の間に、外部の代理店が受け持っていた業務の一部を社内に移したと答えています。外部を使い続けながら、移せる業務を社内に移している回答者が多いことになります。

内製化のメリット・デメリット

ノウハウと対応の速さは手に入りやすい一方、担当者が辞めると業務が止まりやすくなります。コストは下がったと答える人が多いものの、人件費や採用の費用まで入れて比べないと判断を誤りやすくなります。

内製化で手に入るもの

富士フイルムビジネスイノベーションの調査で、広告運用を内製化している人(415人)に得られた効果を聞いたところ、「広告運用コストが削減された」53.3%、「社内に専門的なノウハウやスキルが蓄積された」52.3%、「リアルタイムでの広告調整が可能になった」44.1%が上位でした。

内製化の理由の順位は、調査によって分かれます。富士フイルムビジネスイノベーションの調査で、広告運用を内製化した人が挙げた理由は「広告運用コストを削減するため」(62.9%)が最も多く、「社内にノウハウを蓄積したかったため」(48.9%)が続きました。テスティファイの調査では、自社で運用している、または検討している理由の1位が「運用ノウハウや知見を自社内に蓄積したいから」(56.7%)で、「広告運用にかかるコスト(広告代理店の手数料など)を削減したいから」(46.7%)が続きます。どちらの調査でも、上位の2つはコストとノウハウです。ノウハウが目的なら、作業を外部に任せたままでも社内に残せるものがあります(「何を社内に移し、何を外に残すか」の章)。

コストは下がるか

同じ富士フイルムビジネスイノベーションの調査では、内製化している人の70.8%が、全体のコストが「かなり削減された」(22.1%)または「やや削減された」(48.7%)と答えています。ただし、これは回答者の実感で、人件費を含めて計算したかどうかは書かれていません。内製化をやめた人も回答に入っていません。

下がった側の例として、日経クロストレンドは、化粧品のオルビスが代理店に払っていたマージンの見直しをきっかけに検索連動型広告から内製化し、CPA(顧客獲得単価)を下げたと伝えています(見出しでは「CPA2割減」)。ただし、これは広告の効率の数字で、人件費を含めた総額の比較ではありません。

一方で、インハウス化の組織づくりについてnoteで発信している書き手は、「代理店マージンを削るためにインハウス化したはずが、」人を増やし、ツールを自社で契約することになり、「想定以上にコストがかかっているケースを何度も見ました」と書いています。事業会社でインハウスのマーケティングチームを作り、年30億円規模の広告費を運用した経験を持つ三浦慶介氏(現在は支援会社の代表)は、noteで「やめておくべきは、「マージン分のコストカットをしたい」といった程度の目的設定をしているケースです。」と書いています。

比べるときは、今の側と内製したときの側を、同じ期間・同じ業務の範囲でそろえます。

比べる費用

今(外部に任せている)

内製したとき

外部への支払い

代理店の手数料、運用代行費、制作費

外部に残す業務の分

社内の人

外部とのやり取りや結果の確認にかかる時間

担当者の人件費、採用と育成にかかる費用と時間

ツール

代理店の契約で使えているものがある

自社で契約する費用

立ち上げと退職

(なし)

立ち上がるまでに成果が落ちる分、辞めたときの引き継ぎと採り直しの手間

プロジェクト・予算管理のSaaSを提供するFICILCOMは、外注していても社内の工数はかかることを、同じ業務範囲で総額をそろえて比べる例で示しています。手数料の率は契約によって違うので、自社の請求書の数字で比べます。手数料率を20%前後とする記事はありますが、編集部が確認した範囲では、根拠となる調査を示したものは見つかりませんでした。

内製化で起きやすい問題

内製化を進めるうえでの課題として、富士フイルムビジネスイノベーションの調査では、「専門知識を持つ人材が不足していた」(58.6%)、「データ分析の難易度が高かった」(41.2%)、「社内での広告運用チームの構築に時間がかかった」(36.4%)が上位で、「広告運用業務の属人化を防ぐのが難しかった」と「広告チャネルの管理が煩雑だった」が同率(30.6%)で続きます。

担当者が辞めたときの影響は、外部に任せていたときより大きくなります。三浦氏は「インハウス組織の場合、よほど大きな企業でなければ、ほとんど人材のバッファを持たずに運用することになります。」と書き、退職や休職の影響が外部に委託しているときとは「桁違いに大きく」なると説明しています。

媒体の最新情報も手に入りにくくなります。テスティファイの調査では、自社運用の課題に「最新の広告媒体のアップデート情報にキャッチアップできない」(40.3%)が挙がっています(自社運用を検討している人の回答を含む)。移す途中で成果が一時的に落ちることもあり、日経クロストレンドの連載は、内製化を拙速に進めて成果を落とす企業は後を絶たないと書いています。

代理店との契約を終えたあとに困ることとして、先の組織づくりについて発信している書き手は「広告代理店を切ると広告運用が止まるわけではありません。」「止まるのは、マーケティング組織の意思決定機能です。」と書いています。広告の担当者はいても、どの施策を優先するか、どの媒体に予算を配るかを決める人がいない、という例です。

施策を決める人を社内に置く話は「何を社内に移し、何を外に残すか」の章、担当者が辞めたときの手当ては「誰が担うか」の章、成果が一時的に落ちたときの見方と外部に戻す判断は「移し方」の章で扱います。

作業まで社内に移せる会社・外部に任せるのが合う会社

作業まで社内に移せるかは、実務を受け持つ専任の担当を置けるかで分かれます。置けない会社でも、任せる範囲を決める責任者とアカウントやデータは社内に置き、作業は外部と組めます。

図① 作業まで社内に移せるかを、業務が毎月続くか、主な仕事として受け持つ担当を置けるか、決裁を待たずに決められるかの3つの問いで見当をつける図

作業まで社内に移せるかを、業務が毎月続くか、主な仕事として受け持つ担当を置けるか、決裁を待たずに決められるかの3つの問いで見当をつける図

作業まで社内に移しやすい会社

三浦慶介氏のnoteは、そもそもインハウスマーケティングが必要ない組織や、取り組むのが難しい組織のほうが多いと前置きしています。そのうえで、経営が関わらずにマーケティングの部署だけに任せる形では「確実に失敗します」と書き、数千万円単位の広告費を運用する場合について、データの基盤が無いまま始めることを勧めていません。

各社の説明をもとに編集部がまとめると、作業まで社内に移しやすいかは、次の問いで見当がつきます。

  • 移す業務が、繁忙期だけでなく毎月続けてあるか

  • その業務を、ほかの仕事の合間ではなく主な仕事として受け持つ担当を置けるか

  • 施策を変えるとき、決裁を何段も待たずに決められるか(経営が関わっているか)

  • 広告の管理画面とアクセス解析のデータを、社内の担当者が自分で見られるか

外部に任せるほうが合う会社と、その場合に社内に置くもの

富士フイルムビジネスイノベーションの調査で、広告運用を内製化していない人(63人)が挙げた理由は、「専門知識やスキルを持つ人材がいない」(50.8%)、「社内での広告運用体制が整っていない」(46.0%)が多く、「内製化の必要性を感じていない」も25.4%ありました。自由回答には「代理店の方が効率良い。」という声もあります。

専任の担当を置けない会社や、業務の量が少ない会社でも、次のような組み方があります。

  • 今の代理店や運用代行に、作業を任せ続ける(作業の量が多い、量に波がある、媒体の最新情報が要る場合。依頼先を探すときはWebマーケティング会社の比較)

  • 研修や伴走型の支援で、社内の人を少しずつ育てる(担当者はいるが、知識や進め方が足りない場合)

  • 社内のチームに入り、施策を決めるところから実装まで受け持つ外部の人と組む(作業する人も、次の施策を決める人も足りない場合。FDM(Forward Deployed Marketer)と呼ばれる形)

どの場合も、任せる範囲を決める責任者とアカウントは社内に置けます(「何を社内に移し、何を外に残すか」の章)。

何を社内に移し、何を外に残すか

どの業務を社内に移す場合も、任せる範囲を決める責任者と、アカウント・データ・成果の定義は社内に置きます。施策ごとの判断と作業は、業務ごとに社内か外部かを決めます。

任せる範囲を決める責任者を社内に置く

マーケティングの判断には、2種類あると編集部は考えます。1つは、目標と優先順位を決め、外部や担当者にどこまでの判断を任せるかを決めて、結果を引き受ける判断です。もう1つは、その範囲の中で、どの施策を選び、どう実行するかという判断です。前者は、社内の責任者が持つ必要があります。後者は、社内の担当者にも、外部の人にも任せられます。

たとえば検索連動型広告を代理店に任せている会社なら、社内の責任者が決めるのは、どの商品やサービスに予算を寄せるか、何を成果として数えるか(問い合わせか、資料請求か)、月に使ってよい広告費の上限です。入札の調整や広告文の作成、キーワードの追加と除外は、その範囲の中で代理店に任せられます。代理店から予算の配分を変える提案があったときに、受けるかどうかを決めるのも責任者です。結果の報告を受けて、次の期間に任せる範囲を決め直すまでが、この役の仕事です(編集部の例)。

社内でこの役を受け持つのは、マーケティングの部門長や事業の責任者で、小さな会社では経営者自身が受け持つこともあると編集部は考えます。

マーケティングの支援会社REHATCHの山崎源氏は、「戦略設計」「KPI設計」「アカウント構造」「数値を見た意思決定」を一気通貫で社内に持つことが本来のインハウス化だ、とnoteで説明しています。一方で、戦略を外部と一緒に考える会社もあります。GuideRunnerは「全て内製化するのではなく、戦略設計は外部と一緒に磨き続ける」形を勧め、Webマーケティング支援の一創は「戦略設計と解析の初期構築は外部の知見を借り、日々の運用は社内に残す」配分を挙げています。

戦略を考える作業に外部の知見を借りても、どこまで任せるかを社内の責任者が決めていれば、代理店との契約を見直したときにも、施策を決める人がいない状態になりにくいと編集部は考えます。

作業を外部に任せても社内に残すもの(アカウント・データ・手順)

広告アカウント、顧客データ、成果の定義は、作業を外部に任せていても自社で持っておきます。持っていないと、外部の会社を替えるときや社内に移すときに、それまでのデータを失うおそれがあります。内製化の支援も手がける株式会社LIBEROのつじ氏は、自社で持つものとして「広告アカウントの所有権(代理店が運用するとしても、アカウント自体は自社名義にする)」「顧客データ(リード情報、問い合わせデータ、購買データ)」「KPIの定義(「何をもって成果とするか」は自社が決める)」を挙げ、そうしないと「代理店を変えたくなった時、あるいは内製化したくなった時、蓄積されたデータごと失うことになる。」とnoteに書いています。代理店が運用する場合でも、アカウント自体を自社の名義にしておくことはできます。

内製化を考える理由に多い「ノウハウを社内に残したい」も、作業を外部に任せたままで一部はかなえられます。事業会社で広告やSEOを1人で担当している書き手は、「大事なのは、代理店に任せている期間も「何も知らない状態」にならないこと。」と書いています。編集部は、施策を変えたときに理由を聞いて社内に記録しておくこと、レポートだけでなく管理画面のデータを社内の担当者が自分で見られるようにしておくこと、管理画面のログイン方法や運用の手順を文書で受け取っておくことが、その具体的な形だと考えます。

作業ごとの分け方

どの作業から社内に移すかは、会社によって分かれます。日経クロストレンドは、オルビスが検索連動型広告から内製化した理由を「テキストが中心となる検索連動型広告はSNS広告と比べてクリエイティブ(画像やコピーなど広告コンテンツの中身)の広告代理店への依存度が相対的に低く、運用負荷も抑えられるから」と伝えています。BtoBマーケティングを支援するStartLinkは、自社の解説で「最初に内製化する業務としては「コンテンツ企画」と「KPI管理・分析」が一般的です。」と書いています。ANAの調査では、外部から社内に移した業務として最初に挙がっているのは、SNS・検索・メールなどデジタル向けのクリエイティブでした。ただし、この調査では回答者の82%が、社内に広告会社の役割を受け持つ部署や担当者を置いていると答えています。

業務

社内に移しやすい部分

外部に残しやすい部分

分かれ目

検索連動型広告の運用

キーワードと広告文の見直し、どの商品に予算を寄せるかの判断

新しい配信の仕組みや、媒体の仕様変更への対応

管理画面の数字を続けて見て、予算や広告文を判断できる担当を社内に置けるか

SNS広告・ディスプレイ広告

広告の方針と、自社らしい表現かの確認

画像や動画を頻繁に作り替える制作

作り替える量と頻度

SEOとコンテンツの企画

記事の企画(顧客がどんな質問をするかを知っている人が要る)

サイトの技術的な調査

技術的な調査を任せられる人が社内にいるか

記事・動画の制作

量が一定の、定型の制作

繁忙期の増産、大きな動画の制作

本数に波があるか、社内に書き手や作り手がいるか

メール配信・MA

日々の配信とシナリオの見直し

初期設定とシナリオの設計

リードの段階や商談のステージ、データの項目といった、後から変えにくい初期の設計を社内で決められるか

分析とレポート

成果の定義と、毎週の数字の確認

計測の基盤やダッシュボードの初期の構築

計測の設定を直せる人が社内にいるか

(表は各社の説明をもとに編集部がまとめたものです。オルビスの理由、StartLink(CRM・MAは初期は外注、運用は内製)、一創(解析の初期構築は外部、日々の運用は社内)、広告会社のオプトのコラム(リスティング広告は内製、頻繁なクリエイティブの更新が要るディスプレイ広告は外部)、ANAの調査で外部に出す理由として挙がった、手が足りないことと社内に無い能力が要ることを参考にしました。ANAの調査の回答者は8割以上が社内にそうした部署や担当者を置いていると答えているので、SNS広告・ディスプレイ広告の行とは前提が違います。)

社内に移しにくい業務

テレビCMやラジオCM、新聞・雑誌の広告、大型サイトの純広告のように、広告代理店を通すのが前提の業務もあります。法人研修のアガルートは、自社の解説で、オフラインの広告について「これらは広告代理店に依頼する必要があります。」と書いています。日経クロストレンドの連載は、ラクスル子会社でテレビCMの運用支援サービスを手がけるノバセルについて、「企画・製作と分析を自社で巻き取り、テレビ局を通さざるを得ない放映のみを外注するというスタイルを確立した」と伝えています。

生成AIで、社内で回せる業務はどこまで変わったか

生成AIや媒体の自動化で、作る作業や日々の調整は社内でもしやすくなったと言われていますが、業務の進め方まで変えた会社はまだ少数です。少人数で回すには、出来を確かめる人と、手順を作り直す人が要ると編集部は考えます。

総務省の情報通信白書(令和8年版)で、マーケティング・広報の業務での生成AIの使い方を見ると、「業務プロセスがAI中心に変更されている」は全体の7.4%でした。「部署内の特定業務で活用している」23.9%、「従業員が個人作業の効率化で活用している」18.1%と合わせると、何らかの形で使っている会社は約半数(49.4%)になります。使い始めた会社は多いものの、手順まで作り直した会社は1割に届いていません。

情報処理推進機構(IPA)が2026年に国内企業に聞いた調査でも、AI導入による具体的な効果を聞いた設問(853社が回答)で、「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と多い一方、「外部に委託していた費用の削減につながった」は13.8%、「売上や利益が向上した」は3.9%でした。マーケティングに限らない、AI全般の効果です。AIを入れれば外部に頼む費用が下がる、とは今のところ言いにくい数字だと編集部は考えます。

社内でしやすくなったと言われている作業

広告の運用では、日経クロストレンドの連載が「広告クリエイティブの制作から配信先の選定、ターゲティング、効果測定まで、デジタル広告に関わる業務を自動化するAIツールが相次いで登場した。」と書いています(第1回)。同じ連載の第6回では、広告運用の自動化ツールを手がけるShirofuneの菊池満長氏が、GoogleやMetaなど媒体側のAIの進化で、入札価格の変更や予算配分といった日々の運用調整は「ほぼ完全に自動化されている」と説明しています。「作業ごとの分け方」の表の検索連動型広告でいえば、社内の担当者が受け持つ部分が、日々の調整から、目標の設定と結果の確認に寄ってきたと編集部は考えます。

コンテンツの制作では、ナイルの調査(コンテンツを内製している企業の担当者954人、2026年8月)で、内製化や内製の比率を高めた理由に「生成AIで制作するようになったため」を挙げた人が27.0%いました。

人が確かめるところ

作る作業が軽くなっても、出来を確かめる仕事は残ります。ナイルの調査で、内製の課題の上位は「制作できる人材が足りない」(42.3%)と「担当者によって品質にばらつきがある」(41.4%)でした。生成AIに限らず、広告の配信を媒体の自動化に任せきりにした場合について、菊池氏は、P-MAX(Google広告の自動化キャンペーン)に任せきりにすると「リード数(問い合わせ数)は劇的に増えるが、サービスの対象ターゲット以外の層ばかりを集めてしまう」という事態がよく起きていると、日経クロストレンドで説明しています。StartLinkは「AIが作った下書きはそのまま送信・公開せず、レビュー担当者が確認してから出す運用にしておくと、品質と責任の所在が明確になります。」と書いています。

AIがあれば少人数で回るか

AIで作る作業が軽くなっても、手順の作り直しは誰かが受け持つ必要があると編集部は考えます。たとえば広告文の案を生成AIで出し、担当者が選んで直す流れに変えるなら、誰がどの段階で確かめ、公開の前に誰が承認するかを決め直すことになります(編集部の例)。広告業界の中にいると名乗る書き手は、よくある失敗として、経営層が代理店に払っていた費用の浮いた分を利益に回し、「現場には「AIがあるんだから、今の人数でできるだろう」とリソースを追加しない。これが致命傷となる。」と書いています。

手順の作り直しまで社内で手が回らないときは、次の章の「外部と組む形」から、作り直しを一緒に受け持ってもらえる相手を選ぶ方法もあります。

誰が担うか:社内の人と、外部と組む形

組む形は、社内に足りないもの(作業する人・知識・次の施策を決める人)と、終わったあと社内に残したいものの両方から選びます。

内製化を進めても、外部との関係をすべて終えるとは限りません。広告会社のオプトが経営者416名に聞いた調査(2025年8月)では、54%以上が広告代理店との取引を増やしたいと答え、業務の26〜50%を内製化している企業ではその割合が80.3%でした(代理店自身の調査で、この層の人数は書かれていません)。

社内に置く役割と人数

社内に置くのは、任せる範囲を決める責任者と、実務を受け持つ担当です。何人で始めるかは、支援会社の説明でも幅があります。StartLinkは1人から始める場合を書き、内製化を支援するバクリは専任者を複数名置くことを勧め、広告運用の代理店・コンサルのテスティファイは自社の解説で最小3名、標準5名程度を挙げています。編集部は、1人が辞めたり休んだりしても業務が続くように、できれば2人以上を置くのが望ましいと考えます。

担当が1人の会社でも、内製化は進められます。ナイルが2023年にマーケティング担当者506名に聞いた調査では、社内のマーケティング従事者が1人と答えた回答者のうち、「マーケティング業務を内製化している」と答えた人が最も多く、約6割でした。ナイルは、1人の場合は社内で業務を完結させる傾向があると説明しています。1人で全部を受け持っているぶん、その人が辞めると業務が止まりやすくなります。先の1人で広告・SEO・SNS・メルマガを担当している書き手は、「最終的には自社運用を目指しつつ、立ち上げや人手不足の時期は代理店と組む」のが現実的だとしています。担当が1人なら、作業の一部を外部に残し、アカウントと手順書を後任や外部の担当者も使える形にしておくと、辞めたときの影響を小さくできると編集部は考えます。

採用か育成か業務委託か

仕事量が続き、長く人を育てられるなら正社員の採用、担当者はいるが知識や進め方が足りないなら研修や伴走型の支援、特定の作業だけ手が足りないなら業務委託が、それぞれ候補になると編集部は考えます(「外部と組む形の比べ方」の表の「向く状況」)。

テスティファイの調査では、自社運用の課題に「社内の既存メンバーを育成するノウハウや時間がない」(44.8%)と「広告運用ができる専門人材の採用が難しい」(36.7%)が挙がっています(自社運用を検討している人の回答を含む)。

業務委託で外部の人に入ってもらうときは、役割と任せる範囲を先に決めておきます。先の組織づくりについて発信している書き手は、業務委託の人を入れれば社員の負担が減ると考えがちだが、実際には増える会社のほうが多い、と書いています。業務委託の人が出したものを確かめ、次の判断をする役が、社内の社員に集まるためだと編集部は考えます。

外部と組む形の比べ方

組む形

手を動かす人

社内に残るもの

向く状況

研修・講座

社内の人

担当者の知識

担当者はいるが、知識が足りない

伴走型の内製化支援

社内の人(外部が教え、確かめる)

手順と担当者の経験

担当者はいるが、進め方が分からない

運用代行

外部(任された範囲で続ける)

レポートと、自社名義にしたアカウント・データ

量が多い、量に波がある、媒体の最新情報が要る

社内チームに入る外部の人(FDMなど)

外部の人(施策を決め、頼む側のツールや管理画面の中で実装と効果の測定まで)

作った仕組み・アカウント・手順(引き渡す場合)

作業する人も、次の施策を決める人も足りない

正社員の採用

社内の人

人と知見

仕事量が続き、長く育てられる

個人との業務委託(フリーランス)

外部の個人

契約で決めたもの

特定の作業の手が足りない

頼む前には、組む形ごとに、社内に置く人と確かめることを決めておきます。

組む形

社内に置く人

確かめること

研修・講座

学ぶ時間を取れる担当者

自社の業務に合わせた内容か

伴走型の内製化支援

実務を受け持つ担当者

支援の終わり方と、引き渡すもの

運用代行

結果を見て判断する責任者

アカウントとデータの名義

社内チームに入る外部の人(FDMなど)

任せる範囲を決める責任者と、受け入れ担当

どこまでの判断を任せるか、終わり方、名義

正社員の採用

採用と育成をする人

辞めたときの引き継ぎ

個人との業務委託(フリーランス)

依頼の範囲を決める人

取引条件の明示と、実態が雇用に近くならないか

(表は、各社の説明と調査をもとに編集部がまとめたもの。同じ形でも、会社によって受け持つ範囲は違います)

担当者はいるが進め方が分からない会社が選びやすいのは、伴走型の内製化支援だと編集部は考えます。テスティファイの調査では、外部のパートナーに期待する支援の1位が「社内人材が自立して運用できるようになるインハウス化の構築・育成支援」(43.4%)でした。調査をしたテスティファイは、この支援をサービスとして提供している会社です。伴走型の支援を頼むときは、いつ支援を終え、終えるときに何を引き渡してもらうかを、始める前に決めておくことを編集部は勧めます。

社内チームに入って、施策から実装まで受け持つ外部の人と組む場合

外部の人に社内のチームに入ってもらい、施策を決めるところから実装と効果の測定までを受け持ってもらう形は、FDM(Forward Deployed Marketer)とも呼ばれます。作業する人も、次の施策を決める人も社内に足りない会社には選択肢になります。外部の人に施策の判断を任せる形なので、どこまでの判断を任せるかを社内の責任者が先に決めておくことが前提です。作業の量を増やしたいだけの会社、社内に実行力のある専任の担当者がいる会社、外部に判断や管理画面の権限を出したくない会社には合わず、社内の受け入れ担当を置かないと、作った仕組みが外部の担当者なしでは動かなくなるおそれもあります。決まった定義や資格はまだなく、2026年10月時点で国内でFDMとして料金を公開している会社は、編集部が確認した範囲では見つかりませんでした。頼む前に確かめることは「FDM(Forward Deployed Marketer)とは?代理店・コンサルとの違い」で説明しています。

外部の人に入ってもらうときの契約の注意

外部の会社に頼み、その会社の担当者に社内のチャットや会議に入ってもらう場合は、日々の作業の指示を誰が出すかに注意します。社内から相手の担当者に直接作業を指示せず、相手の会社の管理責任者を通すこと、担当者を指名したり、事前の面談の結果で決めたりしないことが基本です。厚生労働省の疑義応答集は、準委任の契約でも、実態として発注者と受注者側の労働者との間に指揮命令関係がある場合は労働者派遣に当たり、いわゆる偽装請負になると説明しています(第3集 Q1。管理責任者は Q3、指名は第3集 Q7・第2集 問13)。第3集はシステム開発を例にした資料で、マーケティング業務についての個別の判断は書かれていません。日々の作業を社内から直接指示したい場合は、労働者派遣という契約の形もあります。ただし、相手の会社が労働者派遣事業の許可を受けている必要があり(労働者派遣法 第5条)、事業所ごとに派遣を受けられる期間にも原則3年の制限があります(第40条の2)。

従業員を使わない個人のフリーランスや、代表者1人だけで他に役員も従業員もいない会社と直接契約する場合は、2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法の決まりがあります。発注者は取引の条件を明示し、従業員を使う発注者は、成果物などを受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で報酬の支払期日を定めます。従業員を使う発注者は、6か月以上続く業務委託(更新で6か月以上になるものを含む)を解除するとき、または期間満了で更新しないときは、原則として少なくとも30日前までに予告します。作業の時間や場所を決めて管理するなど、実態が雇用に近くなると、契約の名前にかかわらず労働基準法上の労働者と判断されることもあります。相手が会社の社員か個人かで、誰に何を伝えればよいかがどう変わるかは、「業務委託の指示はどこまで?準委任の指揮命令と偽装請負の線引き」で場面ごとに説明しています。

移し方(順番・並走・引き継ぎ・戻す判断)

1つの業務から、外部と並走しながら移し、社内だけで回せたことを確かめてから次の業務に進みます。

図② マーケティングの内製化の移し方。書き出す、最初の1つを選ぶ、並走して引き継ぐ、移し終えたか確かめる、見直すの5段階

マーケティングの内製化の移し方。書き出す、最初の1つを選ぶ、並走して引き継ぐ、移し終えたか確かめる、見直すの5段階

今の業務を書き出し、最初の1つを決める

今外部に任せている業務、使っているアカウントとツール、データの置き場所、契約の内容と期間を書き出します。そのうえで、「作業ごとの分け方」の表を参考に、社内に移しやすい業務を1つ選びます。

最初の1つは、外部への依存が比較的小さく、社内の担当者の手に負える量の業務から選ぶと、並走しやすくなると編集部は考えます。オルビスが検索連動型広告から始めた理由も、SNS広告と比べてクリエイティブを代理店に頼る度合いが相対的に低く、運用の負荷も抑えられることでした(「作業ごとの分け方」)。

並走して引き継ぐ

FICILCOMは、移行計画の解説で、引き継ぐものを「アカウント」「クリエイティブ」「計測」「運用知識」「レポート」「契約」に分け、一定の期間は外部の担当者と並走しながら社内が実作業を受け持つ段取りを示しています。同社は「権限移管と業務移管は別に検収し、必要な担当が使えることを確認してから旧体制の整理を行います。」とも書いています。管理画面の権限を受け取っただけでは、社内で運用できる状態になったとは限らないためです。

並走の期間は、今の外部の会社との契約が終わる時期から逆算して決めると、社内の手が空く期間や、二重に費用を払う期間を短くできると編集部は考えます。編集部は、引き継いでほしいもの(アカウントの権限、過去のレポート、運用の手順)を、並走を始める前に今の外部の会社に伝えておくことを勧めます。

社内で契約することになるツール

代理店に任せていたときに使えていたツールを、自社で契約することになる場合があります。広告代理店で運用組織のマネージャーを務めた経験を持つ神宮寺麗子氏は、2021年の記事で、代理店が持つ運用のツールについて「こういうツールを(実質無料で)使えるのは代理店を利用するメリットでもあります。」と書いています。

移す業務に合わせて、自社で契約するツールを比べておきます。デジタル化の窓口では、メールやMAを移すならMAツールとメール配信システム、SEOとコンテンツならSEOツール、SNSならSNS分析ツール、分析とレポートならBIツールとヒートマップツールを比べられます。

移し終えたかを確かめる

どれくらいの期間で移すかは、支援会社の説明でも幅があります。FICILCOMは90日の移行計画を設計例として示し(採用が要る場合や契約の終わる時期が先の場合は延ばすとしています)、バクリは最低でも半年から1年ほどを見積もるよう勧め、StartLinkは月数ではなく、次の段階に進む条件で管理する方法を書いています。法人研修のアガルートは、「社内メンバーだけでPDCAサイクル1~2周分を自走できることが確認できたら、その業務におけるインハウス化は完了です。」と書いています。1周の長さはその業務を見直す頻度で変わるので、編集部は、月数で区切るより、社内だけで改善まで回せたかで確かめるほうが、移したあとに業務が止まりにくいと考えます。アガルートは、完全にインハウス化した後も、外部の専門業者に点検してもらう方法を挙げています。

外注に戻す・範囲を縮める判断

移したあとでも、外部に戻したほうがよい場合があります。戻す判断の具体的な基準を示した資料は、編集部が確認した範囲では見つかりませんでした。FICILCOMは、90日の移行計画の最後(76〜90日目)に費用・品質・成果を評価して、継続するか、外部との併用を続けるか、範囲を縮めるかを決める段取りを示し、移した直後の一時的な成果の変動だけで成否を決めず、計測や季節性の違いも確かめるよう書いています。編集部は、始める前に決めた見直しの時期に、次の点を確かめることを勧めます。

  • 移した業務の成果が、移す前の水準に戻らないまま続いている

  • 担当者が辞めて、代わりの人を置けない

  • 業務の量が減り、専任の担当を置く理由がなくなった

内製化の支援を受けた結果、外部に任せると決めた会社もあります。オーリーズ取締役副社長の足立誠愛氏は、2022年の宣伝会議 AdverTimes の PR 記事で、支援によって「配信結果の数値の妥当性が判断できるようになり、「いまの自社の状況では、外部委託した方がよい」というジャッジをされたケースもあります。」と話しています。StartLinkは、内製化のあとも繁忙期の制作や社内に知見の無い新しい施策で外注が要る場面が出てくるとして、「良好な関係を築けている外注先とは、契約の規模を小さくしてでも関係を維持しておくことをおすすめします。」と書いています。

始める前に、社内で決めておくこと

内製化を始める前に、次の8つの問いに社内で答えておくと、外部の会社から提案を受けたときに、同じ基準で比べやすくなると編集部は考えます。

  1. 何を手に入れたいか。ノウハウなら、作業を外部に残しても社内に残すもの(判断の記録、データ、手順書)を決めたか(「作業を外部に任せても社内に残すもの」)

  2. 任せる範囲を決める責任者は誰か。その人は何を決め、何を任せるか(「任せる範囲を決める責任者を社内に置く」)

  3. 最初に移す業務はどれか。外部への依存が小さく、社内の手に負える量か(「作業ごとの分け方」)

  4. アカウント、データ、成果の定義を自社で持っているか

  5. 足りないのは作業する人か、知識か、次の施策を決める人か。それに合う組む形はどれか(「外部と組む形の比べ方」)

  6. いつ、何で成否を見るか。移した直後に成果が一時的に落ちることもあると見込んでいるか(「外注に戻す・範囲を縮める判断」)

  7. 担当者が辞めたり休んだりしたとき、誰が引き継ぐか(「社内に置く役割と人数」)

  8. 必要な予算と人の見込みを、経営と現場でそろえたか

8の見込みのずれを感じている人は多くいます。テスティファイの調査では、経営層と現場の認識のずれを「非常に感じる」(32.5%)、「やや感じる」(56.5%)と答えた人が合わせて89.0%で、ずれの中身はどの立場でも「必要な予算やリソースに対する認識」が最も多くなっています。

8つのうち2と4は、作業を外部に任せ続ける場合も、社内に置いておくものです。

よくある質問

Q. マーケティングの内製化は、SEOだけ、広告運用だけでもできますか?

できます。業務ごとに社内か外部かを決めるので、たとえば広告運用は社内に移し、SEOは外部に任せ続けるといった分け方もあります。どちらの場合も、広告アカウントは自社の名義にし、顧客データや成果の定義も自社で持っておくと、あとで範囲を変えやすくなります。SEOを外部に任せる場合は、SEO対策会社の比較から、頼みたい作業を受けている会社を探せます。

Q. 今の代理店に、内製化の相談をしてもよいですか?

広告会社の中には、内製化の支援をサービスとして提供している会社があります。たとえば電通デジタルは2025年3月に「マーケティング組織内製化支援プログラム」の提供開始を発表し、オプトも調査のリリースで内製化支援のサービスを案内しています。今の代理店は、自社のアカウントと過去の施策をよく知っている相手なので、どこまで社内に移し、移したあとに何を引き続き頼みたいかを先に伝えると、引き継ぎの段取りを相談しやすくなると編集部は考えます。ほかの支援会社と比べる場合も、この記事の「始める前に、社内で決めておくこと」をそろえておくと、提案を比べやすくなります(編集部の考え)。

Q. 広告費がいくら以上なら、内製のほうが得ですか?

編集部が確認した範囲では、根拠を示した金額の目安は見つかりませんでした。内製化の移行計画を解説しているFICILCOMも、手数料の率や広告費の額といった一律の境界では判断しないと書いています。編集部は、広告費の額より、移す業務だけで専任の担当を1人置けるほどの仕事量があるかで考えるほうが判断しやすいと考えます(「作業まで社内に移しやすい会社」)。費用は「コストは下がるか」の表の項目を、自社の数字で比べます。

参考・出典

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