ERPとは?
「ERP(Enterprise Resource Planning)」とは「企業資源計画」、すなわち企業経営の根幹となるリソースの適切な配分を実現するためのシステムです。「統合基幹業務システム」や「基幹システム」と呼ばれることもあります。ヒト・モノ・カネ・情報を統合的に管理するために、下記5つの代表的なシステムが搭載されていることがERPの特徴です。
- 会計管理システム
- 生産管理システム
- 販売管理システム
- 在庫購買管理システム
- 人事給与管理システム
上記のようにERPでは、「ヒト」に関する人事管理・「モノ」に関する在庫管理・「カネ」に関する販売管理をひとつのシステムでまとめて行えます。それらの「情報」を一元管理することで、企業の業務プロセス全体の効率化が可能です。情報の管理や業務の効率に課題を抱えている企業こそ、ERPの導入により大きな効果を実感できるでしょう。
ERPの必要性とその理由
近年では、多くの企業がERPを導入し始めています。ERPが必要とされている最大の理由は、「企業リソース」の有効活用や業務効率の改善などの重要性が増していることです。本章ではERPの導入が必要な理由について、下記4つの観点から解説します。
- 従来の手法では情報管理の効率化に限界がある
- 企業成長のためにビッグデータの活用が必要
- コンプライアンス遵守の重要性が高まっている
- ITソリューションのコストが肥大化している
従来の手法では情報管理の効率化に限界がある
従来の手法では、会計や人事、生産などの管理は各部門で導入された異なるシステムにより、異なるデータベースで管理されていました。それぞれに適したシステムを使えば、部門ごとの業務プロセスを最適化しやすくなるからです。
しかし、あらゆる部門の情報は本来つながっており、切り離すことはできません。部門ごとに異なるシステムを使用していると、部門間で情報のやり取りを行う際に余計な工数が生じます。たとえば、販売部門で管理している注文情報を生産部門に引き渡すときは、データの変換や再入力などの手間がかかるでしょう。
ERPを導入すれば、あらゆる情報を統合的に管理して、情報の運用にかかる工数を減らすことができます。手作業によるプロセスの削減は、人為的ミスの発生を防ぐことにもつながります。結果的に企業の情報管理に関わるプロセス全体の効率化が可能です。
企業成長のためにビッグデータの活用が必要
「ビッグデータ」の活用は、企業の経営戦略にとってもはや必要不可欠なものになっています。ビッグデータとは、大量かつ多様なデータのことです。ビッグデータは分析と活用により、新たなマーケティング戦略につながり、近年ではあらゆる企業がビッグデータになり得るデータを保有していると考えられています。
たとえば、「売上情報」と「顧客情報」を自社が保有しているとしましょう。2つのデータを分析すれば、「自社製品をどのような人が購入しているか」がわかります。これまで幅広い層をターゲットとして行ってきたマーケティング戦略を、自社製品の主要な購買層に絞り込んで行えば、マーケティングの費用対効果を改善することが可能です。
ビッグデータ活用の最大の壁は、「いかにデータ収集と分析を効率的に行うか」です。ERP導入により、この課題をクリアできます。各部署に散在していた情報を集約し、一元的に管理できるようになるからです。自社が保有する情報を企業の成長に活かすために、ERPが大きな注目を集めています。
コンプライアンス遵守の重要性が高まっている
近年では企業コンプライアンス、すなわち「法令」と「倫理」の遵守を企業に求める声が高まっています。企業コンプライアンスという概念が唱えられるようになったのは、アメリカのエンロン社やワールドコム社で、2000年代初頭に発覚した粉飾決算事件が発端です。
こうした事件を防ぐために、コーポレートガバナンスや内部統制の維持と、コンプライアンス遵守が重視されるようになりました。コンプライアンスを遵守しない企業は罰則の対象となるだけではなく、消費者からも厳しい非難を浴びるようになっています。
ERPはコンプライアンスの遵守にも役立つシステムです。ERPには不正やエラーの検知、トレーサビリティの担保などの機能が備わっています。部門や役職ごとに適切な権限設定を行うことができるため、不正防止やセキュリティ強化に役立つシステムとして有用です。
ITソリューションのコストが肥大化している
ITソリューションのコストが増大していることも、ERPの必要性が増している理由です。近年では、企業が保有するITソリューションは肥大化し、各システムは年々複雑化しています。そのため、ITシステム関連のコストが企業経営を圧迫することも少なくありません。
ITシステムの運用と管理には相当のコストがかかります。システムのアップデートやバックアップ、メンテナンスのための専門的な人員の配置や、ITシステム自体の利用コストが必要だからです。各部門で異なるシステムを使用している場合は、なおさらのことでしょう。
企業経営に必要なITソリューションを一元管理できるERPは、こうしたコスト面での課題を解決できる手段として注目を集めています。さらに、これまでITシステムの運用に割いていた人的リソースを、ほかの分野で活用できるようになることも企業にとって魅力的です。
ERPを導入するメリット8選
多くの企業がERPを必要としている理由は、情報管理の効率化やコンプライアンス遵守、ITソリューションのコストなどに課題を抱えているためです。この点をふまえて、ERPを導入することで得られる具体的な8つのメリットを確認していきましょう。
- 業務プロセスの自動化で人為的なミスを削減できる
- 全社的な業務の最適化と効率化を行うことができる
- ビッグデータの活用で適切な経営戦略が立てられる
- 経営や意思決定のスピードアップで他社と差がつく
- 内部統制を強化してコンプライアンスを遵守できる
- セキュリティの一括管理で安全性と信頼性が高まる
- ITソリューションの一元管理でコストを削減できる
- サポート体制の強化により顧客満足度を高められる
業務プロセスの自動化で人為的なミスを削減できる
ERPを導入することで、集計や分析などの業務の自動化や、情報共有の円滑化が可能となります。その結果として、人為的なミスを大幅に削減しやすくなることが魅力です。多数の部門からデータを収集する「決算」の時期は、この効果をとくに実感しやすいでしょう。決算時は各部署のデータを集めて、集計と整合性の確認などを行う必要があるからです。
しかし対象となるデータが多ければ、入力や確認のミスが生じやすくなり、その検出は容易ではありません。参照や入力を行う部分を間違えたり、二重計上や漏れなどを起こしたりするなどです。ERPは一連の業務プロセスを自動化してくれるので、ミスを極力減らすことができます。業務を効率化できるだけではなく、企業の信頼性向上にも役立つでしょう。
全社的な業務の最適化と効率化を行うことができる
ERPの導入により、部署間でのスムーズな情報共有と連携が可能となり、業務の効率化を図ることができます。従来の手法では、部署ごとに個別の情報収集と管理を行っていました。大型案件の発生時は各部署に問い合わせたうえで、スケジュールを調整する必要があるなど、余計な工数が必要になることが難点です。
しかしERPを導入すれば、部署ごとに分散したシステムが統合されるため、必要なときに他部署の情報も確認できるようになります。たとえば、製品の在庫状況や原料の納入予定日などを、販売部門からでもリアルタイムで確認可能です。工数削減で重要な業務に多くのリソースを活用できるため、生産性の向上が期待できます。
ビッグデータの活用で適切な経営戦略が立てられる
ERPは企業全体の情報を一元化できるため、必要な情報にいつでもアクセスできるようになります。これは現場の従業員はもちろんのこと、企業経営にも大きなメリットです。ERPを導入すると、各部門の情報を集約したうえで売上や利益、工数とコスト、人事情報や経営状況など重要な情報を「見える化」できます。
情報を視覚化することで、今まで見落としていた情報を「ビッグデータ」として活用できるようになるでしょう。経営陣が必要なときに最善策を検討して、迅速に対応することが可能です。各部門のデータを従業員側が確認し、それぞれの業務を改善しやすくなるため、企業リソースのパフォーマンスの最大化にも役立ちます。
経営や意思決定のスピードアップで他社と差がつく
ERPの導入により経営と意思決定のスピードが増し、競合他社との差をつけやすくなります。IT化とグローバル化により、現代のビジネスは驚異的な速度で進行し、移り変わるようになりました。そのため、企業経営もかつてない速度で行い、世の中の潮流に乗り遅れることなく進めることが求められています。
ERPは経営状況を可視化してくれるため、自社の立ち位置をリアルタイムで把握することが可能です。たとえば、商品の売上高が低下しているときは、できるだけ早く対応しないと他社に後れを取ります。ERPにより「何をすべきか」を見極めやすくなるため、経営陣の意思決定にとって心強いサポートになるでしょう。
内部統制を強化してコンプライアンスを遵守できる
ERPを導入することにより、ガバナンスと内部統制を強化し、コンプライアンスを遵守できる体制を構築可能です。従来の手法では、各部署で異なるシステムを採用していましたが、これは情報の分散につながります。そのため、管理者や従業員の目が届かないところで、情報漏洩や不正が生じるリスクがありました。
ERPは情報を一元管理するため、情報の健全性を監視しやすくなるだけではなく、部門や役職に応じたアクセス権限を設定できます。不正防止やセキュリティ強化の効果は極めて大きく、「トランスペアレンシー(透明性)」を確保した経営が行えるようになるでしょう。
また、日々の業務における人員や工数など、企業リソースも一元管理できます。受注と調達、生産から販売までのプロセスも可視化できるため、無理なノルマ・納期の設定や不正行為の予防も可能です。ERPによる情報の一括管理は、経営側と社員側双方の意識改革を導き、それがコンプライアンス遵守につながります。
労務や税務に関わる法制度が変更されたときに、正確かつスムーズに対応できることもポイントです。部門ごとに個別のシステムを導入すると、思わぬ雑務やミスが発生することがあります。ERPは法令順守の観点からも、企業にとって非常に心強い業務システムです。
セキュリティの一括管理で安全性と信頼性が高まる
ERPによる情報の一括管理は、セキュリティ強度の向上にも寄与します。前述したように、部署ごとに扱うシステムが異なると情報の監視が行き届きません。これが情報漏洩につながり、企業の信頼やコンプライアンスを大きく損ねてしまいます。たとえば、個人情報やクレジットカード情報などが漏洩すると、取り返しのつかない事態になるでしょう。
ERPで業務システムを統合すると、セキュリティの管理も一元化できます。アクセス権限の設定機能のほかに、企業の情報を狙う悪質なハッカーからのサイバー攻撃にも対応できるような、高度なセキュリティ対策を備えているERPも多いです。内部と外部いずれからも情報を強固に保護できる安全性を確保して、企業の信頼性を高めることができます。
ITソリューションの一元管理でコストを削減できる
ERP最大の特徴は「情報の一元管理」ができることです。企業の肥大化したITソリューションの一元管理にもつながり、企業リソースとコストのロスを大幅に削減できます。ITシステムの運用と管理には、専用の人材が必要になることがほとんどです。さらに、従来の業務システムでは、情報の共有と活用に多くの工数が必要でした。
ERPを導入すると、さまざまな業務プロセスを自動化して、ITソリューションへの人員配分を減らすことができます。ITソリューションの活用は「目的」ではなく「手段」なので、それ自体に割く人員とコストはできるだけ削減したいものです。ERPでITソリューションを一元管理すれば、企業リソースをより重要な場面で活用できます。
サポート体制の強化により顧客満足度を高められる
ERPの「各部門の情報を一元管理できる」という特性を活かせば、サポート体制を強化することもできます。たとえば、販売情報と在庫状況を連携させると、顧客から発注があったときにスムーズな対応が可能です。蓄積された顧客情報を分析すれば、カスタマーサービスやクレーム対応も最適化できるでしょう。
顧客目線での体制を構築すれば、企業に対する信頼性と顧客満足度を確実に向上させることができます。こうした環境を実現するためには、社内の情報を一元管理できるERPの導入が必要不可欠です。企業規模や業種に関わらずサポート体制の重要度は高く、ERPの導入は顧客対応にもたらす効果は計り知れません。
ERP7選を徹底比較
製品のおすすめポイント
- 豊富な標準機能から必要な機能を選択して利用可能
- 上場企業も安心、内部統制を強化する機能が充実
- 会計システムと連携可能により、煩雑な連携作業は不要
製品のおすすめポイント
- オールインワンでシームレスな連携とコスト削減
- マルチデバイスの導入に向けた手厚いサポート
- 基幹業務だけではない標準機能でグローバル展開
製品のおすすめポイント
- AIを活用したデータ連携で面倒な業務を自動化
- 手厚いサポートで低コスト・短期間での導入が可能
- ペーパーレス化で様々なデータの一元管理が可能
製品のおすすめポイント
- 他Microsoftソフトと連携してひとまとめに
- 2次元OLAPツールとマイクロソフト製品とのシームレスな連携
- サプライチェーン全体を合理化・最適化
製品のおすすめポイント
- テンプレ・カスタム無しで誰でもそのまま操作可能
- 会計のプロによる設計・プログラミングで効率化
- 海外進出を目指すときでもしっかりサポート
製品のおすすめポイント
- ダッシュボードによる可視化
- 業務内容別に簡単カスタマイズ
- 各国の多言語 / 法令基準に対応
- リアルタイムなBI機能を標準装備
ERPの販売形態
ERPには「オンプレミス版ERP」と「クラウド型ERP」の2つ販売形態があります。本章では、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて確認しておきましょう。
オンプレミス型ERP
「オンプレミス版ERP」は、パッケージ版のソフトウェアを自社コンピューターにインストールし、自社サーバーで運用と管理を行うタイプです。自社の業務内容や導入目的に合わせて、最適なERPシステムの設計と構築を行うことができます。大企業で多く導入されているERPは、このオンプレミス版であることが多いです。
オンプレミス版ERPは社内で完結するため、高度なセキュリティで安全性を確保しやすくなります。しかし、サーバーの構築やメンテナンス作業、セキュリティ対策などすべて自社で行う必要があるため、多大なコストがかかることが難点です。社内リソースや予算に余裕がある場合は、オンプレミス版ERPを検討してみましょう。
クラウド型ERP
「クラウド版ERP」は、ベンダーのサーバー上でERPシステムを利用できるタイプです。ソフトウェアの購入や社内コンピューターへのインストール作業が不要で、自社サーバーを構築する必要もありません。そのため、オンプレミス版ERPと比べると導入や運用のコストが大幅に低く、中小企業で広く導入されています。
クラウド型ERPはインターネット回線さえあれば使えるため、リモートワークで社外からアクセスできることも特徴です。ただし、使用するサーバーは社外のものであり、セキュリティやメンテナンスはベンダー依存となります。低コストで幅広く使えるERPを導入したい場合は、クラウド型ERPを検討してみるといいでしょう。
ERPの種類とタイプ
ERPの代表的な種類は下記4つです。本章ではそれぞれの特徴と、向いている使用目的について解説します。
- 統合型ERP・オールインワン型ERP
- 業務ソフト型ERP・アプリケーション型ERP
- コンポーネント型ERP
- 業界特化型ERP
統合型ERP・オールインワン型ERP
「統合型ERP」や「オールインワン型ERP」は、企業経営や業務プロセスに欠かせない、会計や生産、販売や人事などの業務システムを網羅しているタイプです。ERPは基本的に統合型やオールインワン型の製品が多く、あらゆる業種や企業規模に対応できる機能を備えています。ただしコストは高くなるため、予算に余裕がある場合におすすめです。
業務ソフト型ERP・アプリケーション型ERP
「業務ソフト型ERP」や「アプリケーション型ERP」は、会計や人事など、特定の業務に絞った機能を備えているタイプです。ほかのタイプより低コストかつ短期間で導入できます。ただし機能には制限があるため、ERPとしての魅力は控えめです。必要最低限の部分だけにERPを導入したい、もしくはできるだけ低コストで使いたい場合に向いています。
コンポーネント型ERP
「コンポーネント型ERP」は、必要な機能を組み合わせて構築できるタイプです。柔軟性が非常に高いため、業界特有の業務内容がある企業に向いています。統合型ERP・オールインワン型ERPには、コンポーネント型ERPとしての特性を備えている製品も多いです。
コンポーネント型ERPでは、会計や生産、人事や総務など必要な機能を好きなタイミングで追加できます。コストを削減しながらも、自社に最適なERPを導入しやすいことが魅力です。最大限の導入効果を得たい場合は、コンポーネント型ERPを選ぶといいでしょう。
業界特化型ERP
「業界特化型ERP」は、特定の業界に特化した機能を備えているタイプです。たとえば化学業界や食品業界には、原料の使用期限の管理という「特有の商習慣」があります。業界特化型ERPはこうした商習慣に対応可能です。カスタマイズ不要なので、コンポーネント型より低コストで早期に導入できます。業界によっては大きな導入効果が得られるでしょう。
ERPを適切に選ぶ8つのポイント
ERPの導入効果を最大限に高めるためには、「自社に合うERP」を選ぶことが大切です。本章ではERPを適切に選ぶために重要な、下記8つのポイントについて詳しく解説します。
- 自社の業務内容に合わせた機能を持っているか
- 用途に合わせた柔軟なカスタマイズが可能か
- 運用や保守のサポートが充実しているか
- ライセンスの提供方法が自社に合うか
- セキュリティ強度が十分に高いか
- 自社の既存システムと適合するか
- 現場の担当者が使いこなせるか
- 事前にUIや操作性を確認できるか
自社の業務内容に合わせた機能を持っているか
自社の業務内容や使用目的に合うERPを選ぶことが大切です。ERPに搭載されている機能は、選択するタイプやパッケージによって大きく異なります。低コストなERPを導入して必要な機能が入っていなかったり、逆に高額なERPを選んで使わない機能が多かったりすると、せっかくのERPを有効活用できません。
ERPはさまざまな機能を網羅しているため、ほかの業務システムと比べると導入費用や月額費用が高い傾向があります。それだけに自社に最適なERPを選びたいものです。ERPの導入を検討する際は、自社の業種・業態や抱えている課題を見極めたうえで、必要な機能を洗い出しておきましょう。
たとえば顧客の機密情報を取り扱う業種では、強固なセキュリティ対策が欠かせません。この場合はアクセス権限や情報監視はもちろん、外部からの攻撃にも対応できる高度なセキュリティ機能を備えたERPが望ましいです。最大限の費用対効果が得られる製品を選ぶために、社内で慎重に検討を重ねておきましょう。
用途に合わせた柔軟なカスタマイズが可能か
既存のERPパッケージでは、自社の業務内容に適合するERPを選び切れないことがあります。たとえば特有の商習慣がある業界や、特殊な業務プロセスを導入している企業は、ERPの導入効果を十分に得られないかもしれません。そうした特異性がなくても、法制度やビジネス環境などの変化で、ERPの適合性が低下することもあります。
あらゆる状況に対応できる体制を構築することは、企業の安定的な成長のために抱えません。そこでERPの選定時は「カスタマイズ性」に注目することが重要です。コンポーネント型ERPは、導入前はもちろん導入後も必要に応じて機能を追加することができます。
ただしカスタマイズには追加費用が発生し、機能が増えれば運用が煩雑化するかもしれません。また独自開発のシステムではない以上、既存業務に完全適合するERPを導入することは不可能に近いです。場合によっては、自社の業務プロセスをERPに合わせる必要があります。必要な機能を見極めて、カスタマイズと妥協のバランスを探ることも大切です。
運用や保守のサポートが充実しているか
導入・運用・保守のサポート体制の充実度も、ERP選定で意識したいポイントです。企業のあらゆる業務や情報を一元管理するERPは、企業の「生命線」になるほど重要なシステムとなります。何らかの障害が生じたときは、企業にとって多大な損失が生じかねません。しかしERPの機能は高度なので、社内での問題解決は困難でしょう。
だからこそ、ERPではベンダーのサポート体制が重要な役割を果たします。ベンダーのサポートが充実していると、トラブル発生時も迅速に解決できるため、被害を最小限に抑えることが可能です。サポート内容を確認するときは、トラブルへの対応レベルはもちろん、24時間対応の可否や修正パッチ適用の有無などを細かく確認しましょう。
ライセンスの提供方法が自社に合うか
ERPの導入にあたり、オンプレミスとクラウドのどちらの提供方法を選ぶかは、悩ましいところかもしれません。近年ではクラウド版ERPが主流になりつつありますが、場合によってはオンプレミス版ERPのほうが有利かもしれません。
オンプレミス版ERPの特徴は、カスタマイズ性が高く柔軟なシステムを構築できることです。業務体系が複雑な場合は、とくに高度なERPが求められるので、オンプレミス版ERPが必要になることが多いでしょう。しかしオンプレミスERPには自社サーバーの構築と運用も必要なため、リソースとコスト面で負荷が高いです。
一方でクラウド版ERPは、ベンダーのサーバーで稼働するため、導入と運用の負荷を大幅に軽減できます。近年のクラウド版ERPはカスタマイズ性も高く、ほとんどの要件に対応可能です。コストを重視する場合はクラウド版ERPが向いています。
セキュリティ強度が十分に高いか
ERPは顧客情報や内部情報など、さまざまな機密情報を取り扱うため、セキュリティ強度は極めて重要な要素です。近年では、内部および外部から企業の機密情報が流出する事例が相次いでいます。情報漏洩が起きると企業の信頼が根本から失墜する事態になりかねません。とくにクラウド版ERPを選ぶ場合は、セキュリティ強度に注意が必要です。
自社サーバーで運用するオンプレミス版ERPとは異なり、クラウド版ERPはベンダーのサーバー、つまり開かれたネットワーク上で運用されます。セキュリティ対策やメンテナンス、アップデート作業などを担うのもベンダーです。したがって、クラウド版ERPのセキュリティ強度は、ベンダーの運用体制に依存します。
ベンダーによってはデータセンターの設置場所が異なり、セキュリティ対策がおろそかになっているケースもあるので注意が必要です。一方で権限設定やサイバー攻撃対策など、しっかりしたセキュリティ体制を構築しているベンダーを選べば、リスクを最小限に抑えられるでしょう。機密情報を多く扱う場合はセキュリティ機能を重視してください。
さらに、現在の日本ではさまざまな自然災害が多発しています。ベンダーが被災した際に自社のデータが失われてしまうのは問題です。災害時に自社のデータが保護されるのか、万が一のときのためのバックアップ体制が整っているのかについても確認しておきましょう。
自社の既存システムと適合するか
全社的に業務システムをERPへ置き換える場合は、既存システムとの適合性を心配する必要はありません。しかし既存システムとERPを併用する場合は、システムの適合性は重要なポイントです。
たとえば、グループ企業や子会社にERPを導入し、本社では現在の基幹システムを継続利用する場合は、両者の連携がうまくいかなければ機能不全を起こすかもしれません。近年ではERP移行に関わる課題を解決するために、本社の基幹システムをコアERPとして、グループ企業や子会社に導入するクラウド版ERPを接続するケースが増えています。
既存システムの完全な代替としてERPを導入する場合も、既存システムと使用感が近い製品を選ぶ方がスムーズに移行できるでしょう。システム移行の工数とコストを削減することにもつながります。
現場の担当者が使いこなせるか
現場の担当者が使いこなせるERPを選ぶことも重要です。ERPは「導入して終わり」ではありません。各部門で運用して全社的に活用できる体制が整っていなければ、ERPの導入効果を十分に享受できないでしょう。従業員のITリテラシーはそれぞれ異なるため、一部の人しか使えないERPを導入すると「属人化」が起きやすくなります。
属人化したシステムは、引き継ぎ時に余計な教育コストや手間がかかることや、組織全体にERPが浸透しづらくなることが問題です。したがって、事前に各部門の意見を取り入れて、現場で使いやすいERPを選ぶようにしましょう。ERPの運用体制をあらかじめ構築しておけば、導入後にスムーズな活用と意思疎通が図れるようになります。
事前にUIや操作性を確認できるか
現場の担当者が使いづらいERPを導入すると、作業効率が低下してERPの効果を十分に得られません。とくにUIや操作性が悪いとデータを確認しづらくなるため、事前に「使用感」を確認しておきたいところです。
そのためERPを選ぶときは、デモやトライアルなどを利用できるかについても重要なポイントになります。実際に現場の担当者に試してもらい、機能性や実用性が自社の目的とマッチするか入念に確認しましょう。
業務効率と生産性向上にERPが必要不可欠
ERPは企業の業務効率と生産性向上のために欠かせません。情報を有効に活用し、コンプライアンスを遵守し、ITソリューションのコストを削減するため、多くの企業がERPの導入を始めています。ERPを導入することで、全社的な生産性向上や人為的ミスの削減、適切な意思決定による企業の成長などの効果を期待できます。
自社でサーバーを構築できるリソースがある場合を除き、クラウド型ERPがおすすめです。自社の業務内容に合わせた機能を持ち、十分なセキュリティ強度を備えているかどうかに加えて、現場の担当者が使いこなせるかも確認しておく必要があります。業務効率と生産性を高めるために、最適なERPの導入を検討してみてください。