建設業の原価管理とは？経理の業務負担を軽減するおすすめシステム3選

原価管理は、建設業において自社の利益を最大化するために欠かせない作業です。一方で、建設業独自の規定への対応を求められる難易度の高い作業でもあります。

実際、建設企業に勤める経理担当者のなかには、原価管理の複雑さに頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、建設業の原価管理の重要性や課題について詳しく解説します。また、経理業務の負担を軽減し、より正確な原価管理を実現するために役立つ「建設業向け原価管理システム」の導入メリットや選定時のポイント、おすすめ製品も紹介します。

建設業における原価管理への理解を深めたい方や、システム導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

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建設業の原価管理とは

建設業における原価管理とは、工事の際に発生する原価費用を算出し、管理する作業です。

なお、工事原価費用は、以下の4つの費目に分類されます。

• 材料費
• 労務費
• 外注費
• 経費

原価管理によって各費目がいくらかかったのかを明確に計算・分析することで、無駄なコストの削減や赤字回避につながります。

また、建設業では建設業法の規定によって「損益計算書」に「完成工事高」と「完成工事原価」を記載しなければなりません。損益計算書とは、会社の収益や成長性を示す決算書であり、確定申告の際、税務署への提出が義務付けられています。

原価管理は、完成工事高と完成工事原価を把握するために必要になるので、建設会社が取り組まなければならない重要度の高い作業といえるでしょう。

参照：【許可申請に必要となる書類の一覧】〈令和4年3月31日より適用〉｜国土交通省

建設業における原価管理の３つの重要性

建設業において原価管理の重要性が語られるおもな理由は、以下の3点です。

1. 利益率を高めるために必要
2. 材料費高騰への対策として必要
3. 労務費増加への対策として必要

それぞれの理由を深掘りして解説するので、ぜひ参考にしてください。

利益率を高めるために必要

原価管理は、自社の利益率を高めるために重要性が高い作業です。

建設業の利益率（売上高総利益率）は、約20％前後であり、他産業と比較して低い傾向があります。

利益率とは、売上高に対する利益の割合のことです。つまり、建設業は他業種の企業と同額の売上を出しても利益を確保しづらいといえます。

なお、利益率の計算式は、以下の通りです。

上記の計算式の通り、利益率を高めるには、できるだけ原価を抑える必要があります。原価管理は、自社の工事原価の内訳を正しく把握し、適切な改善施策を実行するために欠かせない作業といえるでしょう。

参照：建設業の経営分析（令和３年度）概要版｜一般財団法人 建設業情報管理センター

材料費高騰への対策として必要

原価管理は、昨今の材料費高騰への対策としても重要な作業です。

一般財団法人建設物価調査会が発表した「建設物価 建設資材物価指数【 2024 年 8 月分 】」によると、2021年以降、急激に数値が上昇していることが分かります。

なお、建設資材の原材料費やエネルギーコストの高騰は、以下のようなさまざまな要因が重なった結果、発生しています。

• ロシア・ウクライナ戦争
• ウッドショック
• アイアンショック　など

加えて、近年は円安の影響も相まり、建設資材の値上がりは業界全体に大打撃を与えています。このような深刻な事態のなかで、少しでも材料仕入れにかかるコストをカットし、少しでも多く自社の利益を確保するためには、よりシビアな原価管理が必要です。

参照：建設物価 建設資材物価指数【 2024 年 8 月分 】｜一般財団法人建設物価調査会

労務費増加への対策として必要

原価管理は、労務費増加への対策としても重要性の高い作業です。労務費とは、企業が製品・サービスを生産するために支払う従業員の賃金や各種手当などを指します。

国土交通省の資料によると、公共工事設計労務単価は、2013年から11年間上昇し続けています。

作業員の労務単価が上がっている背景には、人手不足や働き方改革の推進による賃金引き上げなど、複数の要因が存在します。建設業界の人手不足は、今後も加速すると見込まれており、それに伴って労務コストのさらなる上昇も予想されているのが現状です。

そのため、自社の経営を圧迫しかねない労務費を最適化するための対策として、精度の高い原価管理が求められています。

参照：令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価について｜国土交通省

建設業における原価管理の具体的な流れ

建設業の原価管理は、以下の流れで進めるのが一般的です。

1. 標準原価を設定する
2. 実際原価を計算する
3. 標準原価と実際原価の差を分析する
4. 改善行動の策定・実行

ここからは、原価管理の各フェーズの詳細を解説します。

1.標準原価を設定する

原価管理の第一フェーズとなるのが、標準原価の設定です。

標準原価とは、原価管理の基準・目標となる原価の数値を意味します。標準原価は、1つの工事でどの程度、原価がかかるか概算を算出するために用いられます。想定通り材料を調達でき、工事を順当に進められた場合の原価を想定することで、予算設定の目安を把握するのがおもな目的です。

あくまでも原価の目標値となる概算ではあるものの、市場相場や過去のデータを基に実際原価とかけ離れた数値にならないように算出することが重要です。

2.実際原価を計算する

原価管理の第二フェーズでは、実際原価を計算します。

実際原価とは、工事を進めるにあたって実際にかかった原価費用のことです。具体的には、前述した4項目の工事原価費用をそれぞれ計算し、工事完了までに発生したトータルコストを算出します。

無駄なコストを削減するためにも、現状発生しているコストの内訳を正しく把握する実際原価計算は、重要な意味を持つフェーズといえるでしょう。

3.標準原価と実際原価の差を分析する

原価管理の第三フェーズでは、差異分析を行います。差異分析とは、標準原価と実際原価の違いを分析する作業です。

前工程で算出した標準原価と実際原価の差異を比較することで、自社の経営状況における理想と現実の乖離度を正しく測定できます。例えば、実際原価が標準原価を上回っている場合、当初の想定よりも利益が減少していることが分かります。

また、数字上の差分だけでなく、差が生じる原因の予測・分析も大切です。標準原価と実際原価に差が生じる原因を正しく分析することで、自社の利益拡大につながる改善施策が明確になるでしょう。

4.改善行動の策定・実行

原価管理の第四フェーズは、改善行動の策定・実行です。

具体的には差異分析の結果を基に、実際原価を標準原価に近づけるための施策を検討し、行動に移します。例えば、材料価格高騰が原因で実際原価が高くなっている場合は、以下のような施策を導入します。

• 材料の仕入れ先を変える
• 使用する材料の変更を検討する
• 仕入れ数を増やして単価を下げてもらうように交渉する
• 価格設定を見直す　など

実際原価が高くなる原因を多角的な視点で分析し、改善に向けて適切なアプローチを実行することで、自社利益の最大化を図ります。

建設業の原価管理が難しい理由5選

建設業の原価管理が難しいといわれるおもな理由は、以下の5点です。

1. 勘定科目が特殊かつ複雑
2. 費用構成が複雑
3. 外注費も含めて計算しなければならない
4. 原価・売上を計上するタイミングが難しい
5. 経理担当者に業務負担がかかりやすい

ここからは、それぞれの理由について詳しく解説します。

1.勘定科目が特殊かつ複雑

建設業の原価管理が難しいとされる理由の一つが、勘定科目が特殊かつ複雑である点です。

建設業の財務諸表は、国土交通省が定める分類に従って作成しなければなりません。

また、建設業では「建設業会計」という特別な勘定科目を用いて工事原価を算出する必要があります。具体的には、以下のような一般的な商業会計や工業会計とは異なる項目が適用されます。

引用：建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類｜国土交通省

上記のように他業種よりも細かく分類された専門性の高い勘定科目に沿って、原価を算出しなければならないため、建設業における原価管理は難しいといわれています。

費用構成が複雑

建設業における工事費用の構成が複雑な点も、原価管理の難易度が上がる要因の一つです。公共工事における工事費は、以下の費目で構成されます。

• 直接工事費
• 消費税等相当額
• 共通費

なかでも共通費は特に複雑であり、国土交通省の「公共建築工事共通費積算基準」によって、以下の3つの区分で算定しなければならないと定められています。

引用：公共建築工事の工事費積算における共通費の算定方法及び算定例｜国土交通省

工事費の構成上、共通費には「原価に含むもの」と「含まないもの」が混在します。経理担当者は、各現場から送られてくる膨大な量のデータを、上記のような複雑な区分で仕分けなければなりません。

経理業務にかかる業務負担だけでなく、確認漏れ・チェックミスも増えやすくなる点は、経営上の深刻な課題といえるでしょう。

外注費も含めて計算しなければならない

建設業の原価を計算するにあたって、外注費も含めなければならない点も課題の一つです。

一般的な原価計算で扱う原価要素は「材料費」「労務費」「経費」の3つですが、建設業の場合は、上記に「外注費」が加わり、4つの要素で計算しなければなりません。

なお、外注費には、発注先の法人への支払いや、独立した個人事業者への業務委託費などが該当します。

しかし、実質的に臨時雇用者への賃金と本質的に変わらない労務外注費は、外注費ではなく労務費に分類されるなど、細かい区分が存在します。

このように労務費と外注費の線引きが曖昧で判断しづらい点は、原価計算の難易度を上げている一つの要因といえるでしょう。

原価・売上を計上するタイミングが難しい

原価・売上を計上するタイミングが難しい点も、建設業における原価管理の課題です。

一般的な会計では、顧客へサービスや商品を提供した時点で売上が発生します。

一方、建設業では納品までの期間が長期化しやすい傾向があります。工事開始から完了・引き渡しまで1年以上かかるケースも多く、期をまたぐ際は工事の進捗度合いに応じて、売上・原価を分割計上しなければなりません。

完成していない工事で発生した費用も「未成工事支出金」として計上しなければならないため、原価計算も複雑になりやすいといえるでしょう。

経理担当者に業務負担がかかりやすい

建設業の原価管理が難しいといわれる理由の一つが、経理担当者に業務負担がかかりやすい点です。

建設会社では、一般的に複数の部署や各現場から共有された原価情報を経理担当者がまとめて管理します。そのため、担当者が取り扱う数字やデータも膨大になる傾向があります。加えて、各現場から異なるフォーマットで情報が届く場合も少なくありません。

特に、Excelを使った手動入力によって原価管理を行っている場合、建設業会計の複雑な区分に当てはめながら、膨大な量のデータを仕分け・入力しなければならないため、担当者への負担が大きくなりやすいでしょう。

そのような経理担当者の業務負担を軽減し、正確かつ迅速な原価計算・管理を実現するために、原価管理システムの導入を進める企業も多いのが現状です。

建設業向け原価管理システムの6つのおもな機能

複雑な原価管理を効率的に進めるには、建設業向け原価管理システムを導入するのがおすすめです。

建設業向け原価管理システムとは、工事進捗や資材管理など、建設業の複雑な管理項目に対応可能な原価管理システムを意味します。

なお、建設業務向けの原価管理システムのおもな機能は、以下の通りです。

• 原価データの自動集計機能
• データ分析機能
• 見積作成機能
• 工事台帳の作成機能
• 予算管理機能
• 発注管理機能　など

なかには、他の会計ソフトや勤怠管理システム、ERPシステムなどと連携し、必要なデータを抽出できたり、現場から提供されるExcelデータをそのまま取り込めたりするシステムも提供されています。

上記のようなシステムを導入することで、原価管理における手動入力の業務負担を大幅に軽減できるでしょう。

また、原価管理だけでなく、予算管理や入金・支払管理に対応できるものや、日報管理機能、チャット機能など、現場の作業者を含む社内全体で活用可能なシステムがあるのも特徴です。

建設業向け原価管理システムを選ぶ際のポイント3選

建設業向け原価管理システムを選ぶ際に意識するべきポイントは、以下の3点です。

1. 自社が求める機能を有しているか
2. 自社にあった提供形態のシステムか
3. サポートは充実しているか

ここからは、各比較ポイントを具体的に解説します。自社にとって最適な原価管理システムを見極めるために、ぜひ参考にしてください。

1.自社が求める機能を有しているか

建設業向け原価管理システムを選ぶ際のポイントとして、自社にとって最適な機能を有しているか確認しておきましょう。

前述した通り、建設業向け原価管理システムには、機能や特徴が異なる複数の製品が存在します。原価管理や経理・会計業務のサポートに特化したシステムだけでなく、現場の進捗管理や営業活動の効率化などにも対応できる製品も提供されています。

当然、複数の機能を搭載した対応範囲が幅広いシステムの方が、運用コストは高額です。そのため、必要以上の機能を搭載したシステムを導入してしまうと、過剰なコストがかかってしまいます。

だからこそ、自社の目的や課題を明確にし、機能やコストを比較したうえで、自社にとって最も費用対効果が高い製品を選ぶことが重要です。

コストカットのため原価管理システムに無駄な費用をかけてしまうといった、本末転倒な事態を防ぐためにも、必ず徹底するべきポイントといえるでしょう。

2.自社にあった提供形態のシステムか

建設業向け原価管理システムを導入する際は、提供形態も確認しましょう。

原価管理システムの提供形態はおもに、オンプレミス型とクラウド型に分かれます。それぞれの特徴は、以下の通りです。

各提供形態のメリット・デメリットを把握したうえで、自社の環境や予算に見合うシステムを選定しましょう。

3.サポートは充実しているか

建設業向け原価管理システムを選定する際には、サポート体制の充実度も確認しておく必要があります。

たとえ高性能な原価管理システムを導入しても、社員が使いこなせなければ、高い効果は見込めません。

だからこそ、導入時や運用時の疑問やトラブルを解消してくれるサポート体制が充実したシステムを導入するべきです。具体的には、導入サポートの有無や窓口対応の範囲、時間帯などをチェックしておくと、有事の際でも安心です。

特に、ツールの活用に慣れていない社員が多い企業は、重視すべきポイントといえるでしょう。

建設業向け原価管理システムおすすめ3選

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まとめ

材料費の高騰や労務費の増加などさまざまな要因によって、自社の利益を確保しづらい状況に陥っている建設業界では、特にシビアな原価管理が求められています。

しかし、建設業における原価管理を行うには、特殊な勘定科目や複雑な費用構成などに対応できる専門的な知見が必要です。加えて、取り扱う数字やデータが膨大になりやすいことから、経理担当者の業務負担も大きい傾向があります。

だからこそ、建設業の複雑な原価管理を効率化できるシステムを導入するべきです。工事進捗や資材管理など、建設業の複雑な管理項目に対応できる原価管理システムを有効活用することで、担当者の業務負担を大幅に軽減できます。

機能や特徴が異なる複数の建設業向け原価管理システムが提供されているため、目的や課題を明確にしたうえで、自社にとって最適な性能を備える製品を選定しましょう。