健康経営の現状と課題とは？実施するための具体策から事例まで徹底解説！

健康経営は、企業が従業員の健康を経営資源として捉え、戦略的に健康増進を図る取り組みです。人材不足や平均寿命の延伸、経営リスクの多様化などの背景から、健康経営の重要性は増しています。しかし、経営層の消極的な姿勢や担当者の業務過多、従業員の健康リテラシー不足など、実施に際しての課題も存在します。本記事では、健康経営の目的や必要性、直面する課題を整理し、具体的な実施策や成功事例を通じて、効果的な健康経営の進め方を詳しく解説します。

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健康経営の目的

まずは健康経営の定義について、経済産業省のパンフレットから引用して解説します。

「健康経営」とは？

従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことで、組織の活性化や生産性の向上、起業家一の向上などの効果が期待されます。

引用；経済産業省｜健康経営優良法人 取り組み事例集 令和2年3月

健康経営の目的は、従業員の健康を経営資源として捉え、戦略的に活用することで、企業の生産性向上や競争力強化を実現することにあります。従業員が心身ともに健康であることは、業務の効率化や離職率の低下に直結し、健康経営への積極的な取り組みは、企業の社会的責任（CSR）の一環として企業イメージの向上にも繋がります。

さらに、健康リスクを未然に防ぐことは医療費や休職に伴うコスト削減に寄与し、長期的な経営の安定性を高めます。人材獲得競争の激化やシニア層の活躍などを背景に、健康経緯は注目を集めています。従業員の働きやすい環境を整え、彼らの能力を最大限に引き出すことで、企業全体の持続可能な成長を支える重要な施策といえるでしょう。

「健康経営優良法人認定制度」について

健康経営について解説するうえで知っておきたい精度があるのでご紹介します。「健康経営優良法人認定制度」です。

健康経営優良法人認定制度とは、優良な健康経営を実践している企業等を「健康経営優良法人」として顕彰する制度です。経済産業省が制度設計を行い、日本健康会議が認定しています。

引用：経済産業省｜健康経営優良法人 取り組み事例集 令和2年3月

健康経営優良法人認定制度は、経済産業省と日本健康会議が共同で運営する制度で、従業員の健康増進に積極的に取り組む企業を「見える化」する取り組みです。企業の健康経営への取り組みを定量的・定性的に評価し、認定することで、社会的信用力や採用力の向上に繋げることを目的としています。「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分かれ、それぞれで優良な企業が選定されます。認定を受けた企業は、専用のロゴマークを使用することができ、PR活動等に活かすことができます。健康経営を推進する企業のモデルケースとして、他社への波及効果も期待されています。

健康経営が必要とされる背景

現代社会では、少子高齢化や平均寿命の延伸、労働市場の競争激化など、企業を取り巻く環境が大きく変化しており、こうした中で従業員の健康を守り、生産性や職場環境を向上させる健康経営の重要性が増しています。人材不足の解消や健康リスクの管理、企業価値の向上など、多面的なメリットを生む健康経営は、経営戦略の一環として注目されています。従業員と企業が共に持続可能な成長を遂げるための重要な取り組みといえるでしょう。

現代社会において健康経営が注目される背景には、以下のような課題が挙げられます。

1. 人材不足と人材獲得競争
2. 労働者の高齢化
3. 経営上のリスクヘッジ

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.人材不足と人材獲得競争

少子高齢化が進む日本では、労働力人口の減少が深刻化しており、多くの企業が人材不足に直面しており、限られた人材を獲得し、定着させることが経営上の重要課題となっています。従業員の健康を重視した職場環境の整備は、働きやすい企業としての評価を高め、優秀な人材を惹きつける大きな要因です。また、健康経営に取り組むことで、従業員の離職率を低下させることができるため、結果的に人材不足のリスクを軽減します。さらに、健康経営を実施する企業は、採用活動においても「健康に配慮した企業」というポジティブなイメージを訴求できるため、競争が激化する採用市場において大きな優位性を得ることが可能です。

2.労働者の高齢化

次に労働者の高齢化についてです。日本の平均寿命は年々伸び続けており、高齢化社会が到来しています。その結果、企業は従業員が長期間健康に働き続けられる環境を整える必要に迫られています。高齢化による健康リスクや働く能力の低下を未然に防ぐことは、企業の競争力を維持するために不可欠です。また、平均寿命が延びる中で、従業員の健康維持は生産性向上にも寄与します。さらに、健康に配慮した職場づくりは、定年後の再雇用や高齢者の積極的な雇用にもつながり、企業の持続可能性を高めます。健康経営は、長寿化する社会に適応し、従業員と企業双方にとってメリットをもたらす戦略として注目されています。

3.経営上のリスクヘッジ

企業活動において、従業員の健康問題は深刻な経営リスクとなります。例えば、長期的な病気やストレスによる休職、あるいは生産性の低下は、業績に直接的な影響を及ぼします。健康経営を通じて従業員の健康を管理し、病気の予防や早期発見を徹底することで、これらのリスクを最小限に抑えることが可能です。また、健康保険組合の保険料率の軽減など医療費の削減や、労災対策といったコストカット効果も期待できます。さらに、健康経営を積極的に推進することで、従業員満足度やエンゲージメントが向上し、企業のレジリエンス（回復力）が強化されます。経営上のリスクを軽減しながら、従業員の働きやすい環境を構築する健康経営は、企業の持続可能な発展を支える柱となります。

健康経営の課題

健康経営の重要性が広く認識される一方で、その実施には多くの課題が伴ってきます。特に、経営層の理解不足や担当者の業務負担、従業員の健康リテラシーの低さといった問題が挙げられます。さらに、施策の形骸化や離職率の高さ、健康経営に関するノウハウ不足も、取り組みを阻害する要因です。これらの課題を克服するためには、現状の問題点を正しく把握し、組織全体で改善策を講じることが求められます。健康経営を実施するうえで企業が直面する課題をまとめると下記の項目になります。

1. 経営層が消極的であること
2. 担当者の業務過多
3. 従業員の健康リテラシー不足
4. 離職率が高く、定着しないこと
5. 施策の形骸化
6. 健康経営のノウハウ不足

以下では、具体的な課題とその背景について詳しく解説します。

1.経営層が消極的であること

健康経営が効果を発揮するためには、経営層の理解と積極的な関与が不可欠です。しかし、多くの企業では経営層が短期的な利益を優先し、健康経営への投資を「コスト」と捉える傾向があります。この消極的な姿勢は、健康経営の実現を妨げる最大の障壁となります。経営層が主体的に関与しない場合、全社的な取り組みとして機能せず、形骸化するリスクが高まります。トップが健康経営の価値を認識し、戦略的な判断の一環として推進する姿勢を示すことで、全従業員の意識改革につながり、健康経営を推進できます。

2.担当者の業務過多

健康経営を推進する担当者が多岐にわたる業務を抱えていることも、大きな課題です。特に中小企業では、人事や総務部門が健康経営に関わる業務を兼任しているケースが多く、負担が過重になりがちです。担当者のリソース不足により、十分な計画や実施が行われない場合、効果が限定的になってしまいます。この課題を解決するためには、社内の分業体制を整えたり、外部の専門家に業務を委託するなど、業務負担を軽減するための施策が必要です。

3.従業員の健康リテラシー不足

健康リテラシーが不足していると、健康経営の施策が十分に効果を発揮しにくくなります。その理由は、従業員が健康施策の意義を理解し、行動に移すための基盤が欠けているためです。たとえば、生活習慣病予防を目的とした健康診断や運動プログラムが「面倒な義務」と感じられ、参加率が低下するケースがあります。このような状況では、企業が期待する成果が得られません。また、健康リテラシーが低い従業員は、不調の兆候に気づかず病気が進行するなど、自己管理能力が不足している可能性があります。結果として、予防可能な疾病への対策が遅れ、企業が推進する健康施策の効果が限定的になります。従業員の健康リテラシーの向上は、健康経営を成功させるために欠かせない要素です。

4.離職率が高く、定着しないこと

従業員の離職率が高い場合、健康経営の効果を長期的に享受することが困難になります。健康経営は、健康診断や予防施策、職場環境改善など、長期的な取り組みによって効果が発揮されるものです。福利厚生や教育プログラム、設備投資などにもコストがかかります。離職率が高いと、従業員が施策の恩恵を十分に受ける前に退職してしまうことが多く、健康施策にかけた投資が十分に回収されず、企業全体の経済的なメリットが薄れる結果となります。特に、若手社員の離職率が高い企業では、健康施策を受ける前に退職してしまうケースが多く見られます。

5.施策の形骸化

健康経営の取り組みが形式的に実施され、具体的な成果に結びつかない「形骸化」も課題の一つです。よくある形骸化の原因は以下の通りです。

• 目標設定の不明瞭さ
• 従業員の参加意識の低さ
• 成果の見える化ができていない

健康経営の施策に具体的で測定可能な目標が設定されていない場合、施策の成果を評価・改善することが難しくなります。「健康意識を高める」といった漠然とした目標では、従業員の行動変化を促す効果が乏しくなります。

また、健康施策が従業員のニーズや実情に合わない場合、従業員は施策を「形式的な義務」と捉え、積極的に参加しなくなります。例えば、一部の従業員にしか恩恵がない施策や現場の負担を増やす取り組みは、現場での不満を招きやすいです。

さらに、健康施策の結果を適切に計測・可視化しない場合、施策の効果が従業員や経営層に伝わりにくく、取り組みの重要性が軽視されます。これにより、「やっているだけ」の状態が継続し、モチベーションが低下してしまいがちです。

こうした施策の形骸化を防ぐためには、具体的で測定可能な目標を設定し、継続的な評価と改善を行う仕組みが必要です。

6.健康経営のノウハウ不足

健康経営に取り組む企業の多くは、専門的な知識やノウハウの不足に直面しています。健康経営は比較的新しい概念であり、特に中小企業では、これを戦略的に導入するための知識や成功事例がまだ十分に普及していません。多くの企業が手探りで取り組んでいる段階にあります。

健康経営優良法人認定制度などが進展することで、政府や自治体、健康保険組合などが企業支援を強化しており、少しずつノウハウの普及が進んでいますが、それでも中小企業では専任の人材や十分なリソースが確保できないために、効果的な施策を設計することが難しい場合があります。外部の専門家や健康経営の成功事例を活用し、自社に適した形で取り入れることが、ノウハウ不足を補う鍵となります。また、社内での情報共有や学習機会の拡大も重要です。

健康経営を実施するための具体策

健康経営を成功させるためには、課題を克服し、実効性のある取り組みを計画的に進めることが重要です。単なる理念に留まらず、具体的な行動に落とし込むことで、企業全体に健康経営の効果を広げることができます。特に、経営層のリーダーシップと組織全体の協力が欠かせません。また、従業員のニーズを反映した現実的な目標設定や、専門的な支援を活用することも、実施を成功させるポイントです。

1. 経営層が積極的に取り組む
2. 組織全体で注力する
3. 実現可能な目標を定める
4. メンタルヘルス対策を強化する
5. 外部の専門講師に委託する

以下では、健康経営を推進するための具体的な施策について解説します。

1.経営層が積極的に取り組む

健康経営の成否は、経営層の意識にかかっています。経営層が率先して健康経営の重要性を社内に発信することで、組織全体の理解と協力を得ることが可能です。トップダウンで健康経営を推進する姿勢を示すことで、施策が浸透しやすくなります。

2.組織全体で注力する

健康経営は、経営層だけでなく、全従業員が一体となって取り組む必要があります。特定の部門に業務を任せるのではなく、横断的なプロジェクトとして進めることで、より実効性の高い施策が可能になります。健康経営を全社的な活動とするため、各部門間の連携や情報共有を徹底しましょう。

3.実現可能な目標を定める

健康経営を成功させるには、具体的かつ達成可能な目標を設定することが重要です。目標が明確であれば、進捗状況を可視化しやすくなり、継続的な改善が可能になります。「従業員の歩数向上」や「健康診断受診率の向上」など、具体的な数値目標を掲げることが効果的です。

4.メンタルヘルス対策を強化する

心の健康は、従業員のパフォーマンスに直接影響を与えます。職場環境におけるストレス管理や相談体制の整備など、メンタルヘルスケアを充実させることで、従業員の働きやすさを向上させます。具体的には、定期的なストレスチェックやカウンセリングの実施が推奨されます。

5.外部の専門講師に委託する

健康経営に関する知識や経験が不足している場合、専門家のサポートを活用することが有効です。外部講師を招いて健康教育を行ったり、施策の設計を支援してもらうことで、効率的かつ効果的な取り組みが可能になります。外部の視点を取り入れることで、自社では気づきにくい改善点が明らかになるでしょう。

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健康経営に関する事例

健康経営を実践する企業の成功事例は、取り組みを進める上で大いに参考になります。中小企業や地域密着型企業であっても、従業員の健康を支える工夫や独自の施策を通じて、業績向上や職場環境の改善を実現しています。以下では、株式会社笹間製本印刷やネッツトヨタ山陽株式会社をはじめとする企業の具体的な事例をご紹介します。

1. 株式会社笹間製本印刷
2. ネッツトヨタ山陽株式会社
3. 株式会社弘盛
4. ナガオ装工株式会社
5. 株式会社デンソー

これらの成功事例をヒントに、自社に適した健康経営の取り組みを進める一助としてください。

1.株式会社笹間製本印刷

株式会社笠間製本印刷は、印刷業界に根強い健康面でのマイナスイメージを払拭するため、労働環境の改善に取り組みました。具体的には、残業時間の短縮や作業員の安全を確保する材料の使用など、従業員の健康に配慮した施策を実施しています。これらの努力により、全日本印刷工業組合連合会のCSR認定を受け、2015年には印刷産業環境優良工場表彰で経済産業大臣賞を受賞しました。さらに、2021年3月には「健康経営優良法人2021ブライト500」に認定されています。

同社は、残業時間の削減に向けて、部署ごとの目標設定や個人の残業時間に応じた評価システムを導入し、21時から19時へと段階的に業務終了時間を早める取り組みを行いました。また、運動不足解消のため、市内のスポーツクラブと契約し、社員が割安で利用できる環境を整備。さらに、土曜日にはインストラクターを会社に招き、トレーニングやストレッチの指導を実施しています。食生活の改善にも力を入れ、社内で健康に配慮した惣菜を1つ100円で販売するなど、従業員の健康促進に努めています。

参考：産業医トータルサポート

2.ネッツトヨタ山陽株式会社

ネッツトヨタ山陽株式会社は、従業員の健康を企業の持続的発展の原動力と位置づけ、全社員での健康づくりに取り組んでいます。具体的な施策として、毎月の健康チェックや全社員でのラジオ体操の実施、社員食堂でのヘルシーメニューの提供などを行っています。また、外部講師によるセミナーを通じて、最適な食生活や禁煙に関する知識の普及にも努めています。これらの取り組みが評価され、2018年には「おかやま健康づくりアワード2018」を受賞し、2023年には「健康経営優良法人」に認定されました。

参考：ネッツトヨタ山陽　健康経営

3.株式会社弘盛

株式会社弘盛は、従業員の健康管理を経営戦略の一環として捉え、以下の具体的な取り組みを実施しています。

まず、健康づくり担当者を設置し、40歳以上の従業員の検診データを提供することで、健康管理の徹底を図っています。定期健康診断の受診率は実質100％を達成しており、ストレスチェックも実施しています。また、教育機会の設定や適切な働き方の推進、コミュニケーション促進のための施策を展開。さらに、病気の治療と仕事の両立支援、女性の健康保持・増進、感染症予防、長時間労働者への対応、受動喫煙対策など、多岐にわたる健康経営施策を行い、これらの取り組みにより、同社は「健康経営優良法人2024」に認定されました。

参考：株式会社弘盛　健康経営

4.ナガオ装工株式会社

ナガオ装工株式会社は、従業員の健康を経営資源として捉え、さまざまな健康経営施策を展開しています。同社では、全従業員を対象とした定期健康診断を会社負担で実施し、ストレスチェックも含めた健康管理を強化しています。また、ワークライフバランスを意識した労働条件の改善や、24時間対応の電話健康相談・メンタルサポートの提供など、従業員が働きやすい環境づくりに注力しています。

さらに、感染症予防対策として検温やアルコール消毒を徹底し、インフルエンザ予防接種費用の補助も行っています。これらの取り組みは、従業員の病気治療と仕事の両立支援にもつながっています。月に一度の健康情報提供やラジオ体操といった健康促進活動も推進しており、こうした継続的な施策により「健康経営優良法人2023」に認定されました。

参考：ナガオ装工株式会社　健康経営の取り組み

5.株式会社デンソー

株式会社デンソーは、従業員の健康増進を経営課題の一つと位置づけ、「健康経営」を推進しており、2016年9月には「健康宣言」を発表し、心身両面の健康施策の充実に取り組んでいます。

具体的な取り組みとして、健康担当役員から健康責任者（部門長）へ「健康でイキイキと元気に働ける職場と人づくり」をテーマとしたメッセージの発信や、部署別健康データの共有、11項目の健康アクションの展開などを行い、個人・職場の行動改善を促進しています。また、デンソー山形では、健康経営戦略マップを作成し、「全ての従業員がいきいきと長く働ける環境づくり」と「ベストパフォーマンスの発揮」を経営課題として定め、従業員定着率やワークエンゲージメント、プレゼンティーズム、アブセンティーズムなどの指標を設定し、活動を推進しています。

これらの取り組みにより、従業員の健康意識が向上し、働きやすい職場環境が整備され、結果として離職率の低下や従業員の定着率向上につながっていると考えられます。

参考：株式会社デンソー　社員とともに進める健康づくり

健康経営による4つのメリット

健康経営を導入することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。従業員の健康を守り、働きやすい環境を整えることで、組織全体のパフォーマンスが向上し、持続可能な成長を実現できます。具体的な効果として、生産性向上や定着率増加、企業イメージの向上、コスト削減などが挙げられます。

1. 生産性が向上する
2. 定着率増加につながる
3. 企業イメージ向上につながる
4. コストカットにつながる

以下では、これらのメリットを詳細に解説します。

1.生産性が向上する

従業員の健康が改善されることで、業務効率が高まり、生産性が向上します。健康な状態で働ける環境は、集中力や作業効率を大きく向上させます。具体的には以下のような効果を期待できます。

• 欠勤率の低下
• プレゼンティーイズム（健康上の問題を抱えながら業務を行う状態）の改善
• エンゲージメントの向上

健康経営の取り組みによって、病気やストレスを理由とした欠勤が減少します。また、健康状態が悪い従業員は出勤していても集中力や効率が低下していることがあります（プレゼンティーイズム）が、 健康経営により、身体的・精神的健康を改善することで、この問題を解消できます。健康的な状態にある従業員は集中力が高く、意思決定や問題解決能力が高い傾向にあります。疲労感が軽減されたり、職場のストレスが緩和されたりすることで、業務の効率が大幅に改善します。

さらにエンゲージメントの向上についていうと、健康に配慮した職場環境は従業員に「大切にされている」という感覚を与え、働く意欲を高めます。個々のパフォーマンス強化、組織全体のパフォーマンス向上に直結します。

2.定着率増加につながる

健康経営に取り組む企業は、従業員にとって働きやすい職場環境を提供していると認識されます。その結果、従業員の満足度が向上し、離職率の低下につながります。特に若手社員や高齢者が長く働ける環境を整えることで、定着率が飛躍的に改善するでしょう。福利厚生や働きやすさに敏感な若手世代にとって健康経営は企業選択の重要な指標となり、健康支援や職場環境改善は高齢従業員が長く働ける職場を提供する要因となります。

実際、健康経営を導入した企業の中には、離職率が大幅に低下した事例もあります。たとえば、上記の導入事例で解説したように、株式会社デンソーでは、従業員の健康管理の一環としてストレス対策やワークライフバランスを重視し、離職率の低下を実現しています。

3.企業イメージ向上につながる

健康経営を積極的に実施することは、企業の社会的責任（CSR）の一環として評価されます。従業員の健康を重視する企業姿勢は、取引先や求職者からの信頼を獲得し、ブランド価値の向上に寄与します。　取引先に安心感を与え、長期的な関係構築を可能にします。

また、経済産業省と日本健康会議が運営する「健康経営認定制度」を活用することで、さらなる企業イメージ向上が期待されます。この認定を受けた企業は、名刺やホームページ、採用活動で認定ロゴを使用できるため、社会的評価やブランド価値が向上するとされています。健康経営優良法人に認定された企業の中には、「従業員の健康に配慮した信頼できる企業」として、取引先や顧客からの評価が高まったという報告も聞かれています。

さらに、採用活動へのポジティブな影響も考えられます。就職活動を行う学生への調査では、「職場環境や福利厚生が充実している」ことが企業選びで最も重要なことであると回答しており、健康経営が企業選びの重要な指標となっています。待遇面を重視する傾向のある若年層へのPRとしても有用です。

参考：マイナビ　2025年卒 学生就職モニター調査 6月の活動状況

4.コストカットにつながる

従業員の健康リスクを予防することで、医療費や休職による補填コストを削減できます。また、職場の効率化や従業員のパフォーマンス向上により、間接的なコスト削減効果も得られます。健康経営を通じたコスト削減は、企業の収益力強化につながります。具体例も交えて解説します。

 医療費の削減

企業の医療費削減について言えることは主に以下の3点です。

• 健康保険料の削減効果
• 自己負担コストの削減
• 労災や職場事故の防止

健康経営が成功した場合、従業員の医療費が減少し、企業が健康保険組合に支払う保険料の負担が軽減される可能性があります。なお、従業員一人当たりの医療費削減が企業にとってどの程度の直接的なコスト削減につながるかについては、企業が負担している医療費や保険料の仕組みに依存します。

また、 一部の企業では、従業員の医療費を補助する制度を設けている場合があり、これに対する負担の軽減効果が期待できます。さらに、健康経営の一環で職場の安全性や健康管理が向上することで、労災や事故にかかる費用が削減されます。労働災害防止施策を強化した企業では、労災保険料の減額や事故関連の補償費削減が報告されています。

 欠勤コストの削減

健康経営により欠勤率が下がることで、休職や人員不足による補填コスト（代替人員の雇用や業務調整のコスト）が削減されます。たとえば、アメリカのジョンソン・エンド・ジョンソン（J&J）では、健康経営プログラムを通じて従業員の欠勤率が下がり、生産性が向上したと報告されています。

参考：J&J 健康経営：社員の健康への取り組み

ただし、これらのメリットを享受するためには、各企業が自社の状況に応じた取り組みを行うことが重要です。具体的な削減率や効果は企業や施策の内容によって異なります。長期的、持続的に健康経営に取り組んでいきましょう。

まとめ

健康経営は、従業員の健康維持・向上を通じて、生産性の向上や離職率の低減、企業イメージの向上など、多くのメリットをもたらします。しかし、形骸化やノウハウ不足といった課題を克服するためには、経営層の積極的な関与や組織全体での取り組みが不可欠です。本記事で紹介した具体策や事例を参考に、自社の状況に適した健康経営を推進し、持続的な成長と競争力の強化を目指しましょう。

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