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IoTセンサーで人と車の動きを観測 社会課題を解決する人流・交通観測ソリューションとは?

目次

日本では2010年頃から、ITや先端技術を活用して環境負荷を抑えながら持続的発展を目指す「スマートシティ」の取り組みが始まった。現在は「スーパーシティ」、さらには「デジタル田園都市」へと発展を遂げ、最先端技術を駆使した街づくりが進められている。新しい街づくりにおいては、人の流れや交通量、滞留時間などの情報やデータが、意思決定をする上で重要な「判断材料」や「基準」となる。そうした、人流などのデータを可視化するツール、「ナガレミル」を提供しているのが岡谷エレクトロニクスだ。社会課題を解決する可能性を秘めたソリューションである「ナガレミル」とは? 同社の永畑直樹氏に聞いた。

赤外線を使って人や車の動きを見える化

人流とは、移動する時間や場所、各エリアでの滞留時間など、人々の動きや流れを指している。人流が可視化されると、「人がいつ、どこからどこに移動しているのか」「エリア内にどのくらいの人が滞在しているのか」といった情報が把握できるようになり、公共施設での混雑緩和を図れたり災害時の避難誘導に役立てるなど、さまざまな社会課題の解決につながる。

従来、人流は人が手押しのカウンターなどを持ちながら、複数地点で目の前を通る人の数を数え、そのデータを統合して解析を行うのが主流であった。近年は、デジタルカメラを使った画像解析によって人流を解析するシステムも開発されている。一方、「ナガレミル」は3D-LiDARセンサーが近赤外線レーザーを照射し、物体に反射したレーザー光の戻り時間を計測することで物体までの距離や形状を算出し、3Dの点群データにする。その点群データをAIが解析し、人や車、2輪車などを識別。さらに動きをロギングし、人の動きや流れをグラフや表で見える化して、行動分析が行えるようにするシステムだ。

「ナガレミル」は次の3つの要素で構成されている。1つ目は、点群データを取得するための3D-LiDARセンサーだ。主に岡谷鋼機が代理店として取り扱っているアメリカのOuster社製で、顧客のニーズに合わせて中国製のLivox/Hesaiなど、他のLiDARも使用している。2つ目は、点群データを人として認識し、人の動きを計測するソフトウェアおよびAI。韓国のメーカーが開発したものを使用している。そして3つ目が、ロギングしたデータをクラウドにアップロードしてダッシュボード化するシステム。岡谷エレクトロニクスが開発したもので、これによってダッシュボード上での分析が可能となる。

 

「ナガレミル」は、環境認識センサーである「3D-LiDAR」を採用した人流観測ソリューション。AIとクラウドを組み合わせたオールインワンシステムで、ダッシュボードによる分析が可能となっている。

実際に「ナガレミル」から得られる情報には、どのような特徴があるのだろうか。岡谷エレクトロニクス テクノロジー本部 ビジネス推進部 ビジネス推進グループ プロジェクトリーダーの永畑直樹氏は、「個人情報を取得しない」「1台で広範囲をカバーできる」「天候や時間帯の影響を受けない」といった点が、カメラによる人流解析システムよりも優れていると語る。

岡谷エレクトロニクス株式会社 テクノロジー本部 ビジネス推進部 ビジネス推進グループ プロジェクトリーダー 永畑 直樹 氏

例えば、『ナガレミル』が照射するのは赤外線なので、人の顔や服装などは記録されず、プライバシーを侵害しません。また、夜間や逆光など周囲の明るさの影響も受けず、雨天でも正確にデータを収集することができます。カメラの場合は、広い範囲の人流データを集めようとすると距離をあけて複数台設置する必要があります。これに対して、360度回転しながらデータを取得する3D-LiDARセンサーならば、1台で半径20〜30メートルの範囲をカバーできます」(永畑氏)

さまざまな分野で活用が広がる人流データの活用

永畑氏が「ナガレミル」の導入で自治体やさまざまな団体からよく相談を受けるのが、大規模イベントなどの開催時に事故防止のためにどう混雑を避ける誘導をすればいいのかだという。特に、韓国・ソウルの梨泰院(イテウォン)で起きた雑踏事故以来、人流観測への関心が深まっており「事故防止のためにエビデンスを取りたいという要望も多い」という。

例えば、2024年9月に国立競技場で開催されたサッカーの試合「FC東京 vs 名古屋グランパス」戦において、「ナガレミル」を活用した混雑解消に向けたアプローチとして、5万人以上が来場する大規模イベントでの人流データを計測した。特に課題となっていたのが、試合後の混雑だ。そこで、「ナガレミル」で人の流れを数値化し、具体的にどのくらいの来場者がどの駅に向かっているかを把握することで、混雑緩和の改善策が検討されるという。

また、近年はワールドワイドで顧客満足度調査に基づく空港ランキングが発表されている。そうした中、国内有数の利用者数を誇る空港がデジタルを活用してランキングを上げていこうと「ナガレミル」を導入した。現在、同空港のターミナルで、出発ロビーから保安検査場までの人の流れを見える化。200~300mのロビーを6台の3D-LiDARセンサーでセンシングし、1枚の画面に統合している。その情報を元に、混雑している検査場と余裕がある検査場の情報を解析し、均一に人が流れるような対策を検討しているという。

同空港では、今後店舗についても混雑状況を見える化し、その情報を元に商品の仕入れを調整して機会損失をなくす検討を行ったり、フロアでは警備員の配置や清掃のタイミングなども導き出そうとしている。混雑という課題の解決に加えて、ビジネスの可能性を広げることを視野に入れる。岡谷エレクトロニクスとしては、「顧客のニーズに合わせて計測をし、そのデータをもとに外部と協力をしながらシミュレーションなども作り、混雑緩和など顧客満足度を上げるための協力をしていきます。さらに、お客様のビジネスを伸ばすことにも貢献していきたい」と永畑氏は語る。

さらに「ナガレミル」は、国や自治体の都市計画や街づくりにも貢献しようとしている。横浜市では交通状況の把握や道路計画などの基礎データ取得のため、交通調査員が60~100カ所の交通量調査を定期的に実施しているが、調査員の人手不足と膨大な集計作業が課題となっている。また、既存の調査方法では特定日のデータしか取得できない。そこで、岡谷エレクトロニクスと連携し、3D-LiDARセンサーを活用した交通量調査を実施した。将来的には交通信号の情報と連携して、歩行者用の信号が赤なのに、交差点の中にまだどのくらい人が残っているのかなども見える化できるようになる。「それによって、警察にも信号制御の提案ができるようになるでしょう」と展望を語る。

横浜市と連携し、3D-LiDARを活⽤した交通量調査を実施。⾼精度で⾃動⾞を認識し、通⾏台数を計測した。

 

人流データの活用を社会貢献につなげていきたい

岡谷エレクトロニクスには3D-LiDARセンサーなどハードウェアのノウハウだけでなく、長年マイクロソフトのディストリビューターとして積み上げてきた、ソフトウェアの知見も蓄積されている。それによって、幅広い見地から課題解決に向けた提案ができると永畑氏は説明する。「『ナガレミル』は、3D-LiDARセンサーから取得したリアルアイムのデータをロギングし、クラウドにアップロードしてダッシュボード化します。ダッシュボード上では、様々な角度からのデータ分析も可能です。さらに、他のアプリケーションと連携させて、リアルタイムで取得したデータをトリガーに、混雑予測を出すこともできます」

こうした岡谷エレクトロニクスの強みについて、永畑氏は説明する。「マイクロソフトが提供するクラウドシステムAzure上の分析ソリューションであるPower BIに、滞留時間や通過カウント、OD(起点・終点)調査、速度調査などのダッシュボード機能を加えることもできます。これによって、当日取得したデータをバッチ処理して、後からダッシュボードで確認できるシステムも構築可能となります

また、今は人流の可視化がトレンドになっているが、「人流データを具体的に何に使えばいいのかについては、まだ市場として確立していない」と永畑氏は感じているという。ビジネスの分野においても、「販売予測や需要予測、機会損失の防止など、ざっくりとした指標はあるものの、それが直接的にどこまで売り上げの向上につながるのかについては曖昧です」と述べる。そうした中、同空港の事例については、「まずはやってみようという心意気のもとに、チャンスをいただいたことが非常に印象深かったです。今後、ビジネス分野での人流データの活用をどう伸ばしていけるのかを考える、いい機会を得ることができました」と振り返る。

永畑氏が日頃から大切にしているのが、まずは顧客のニーズを汲み取ること。何を望んで、何を解決したいのかというところを第一に考えて、「われわれが持つデジタルの力で、それがどう解決できるのかを一緒に考えたい」と語る永畑氏。「ナガレミル」についても、「これを使うことで30分後、1時間後の人の流れがこうなる。これくらい人が来る」といった予測を生み出せるソリューションに育てていきたいと切に感じているという。さらに永畑氏は、「そうした情報が蓄積されれば、私たちの日々の暮らしも豊かになると思います。『ナガレミル』を社会課題の解決に資するソリューションに育てていきたい」と思いを語った。

 

岡谷エレクトロニクス株式会社

岡谷エレクトロニクス|OEC
https://www.oec.okaya.co.jp/

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