eラーニングを自社で導入していくために重要なことは、eラーニング実施が労働時間に含まれるのかを明確にしておくことです。例えば、会社の一般的な研修は、すべて労働時間にみなすことが基本です。それでは、eラーニングに取り組む時間は労働時間に含まれるでしょうか?この問いは、eラーニング導入における課題やデメリットの根底にも通ずるものであり、十分に理解することで、自社で効果的なeラーニング導入が実現できるでしょう。
eラーニングについての基礎知識
eラーニングを実施する必要性を考える上で、ますます浸透するeラーニングの概要を理解することが不可欠です。eラーニングは、電子機器やインターネットを用いて行われる学びの形態で、主に学習管理システム(LMS)を活用しています。これは、コンピュータやスマートフォン、タブレットを通じて、インターネットを介して行われる学習手法であり、その柔軟性と利便性が特徴です。
1.eラーニングとは?
eラーニングは、学ぶプロセスを電子化し、学習者が場所や時間に制約されずに学ぶことを可能にします。この形態は、オンライン学習やデジタル学習とも呼ばれ、双方向的なコミュニケーションが可能な学習手法です。”e”は”electronic”の略で、電子的な学習を指します。これにより、業務の合間や通勤時間など、学習者が選ぶことのできる柔軟な学習環境が整います。
2.eラーニングの柔軟性と特長
eラーニングでは、デジタル機器とインターネットを活用して、教育、学習、研修を行います。これにより、集合研修とは異なり、時間や場所を選ばず、個々の事情に合わせて学習できます。集合研修に参加できなかったり、特定の場所に行けなかったりする受講者にも学習の機会を提供することが可能です。これは、eラーニングが個々のニーズに合わせた学習を可能にし、受講者の習熟度に応じて自己ペースで進めることができるためです。
3.LMS:学習管理システムの役割
eラーニングでは、学習教材と学習履歴、テストの成績などを一元的に管理する学習管理システム(LMS)が活用されます。これにより、教育担当者が従来の集合研修や紙ベースの管理よりも手間を大幅に削減できます。これにより、企業はより効率的かつ効果的な学習環境を提供できるようになり、従業員のスキル向上や成果の向上に貢献します。
研修(eラーニングを含む)と労働時間に関しての基礎知識
eラーニングを含む研修制度の設計において、「動画の視聴時間を労働時間に含むべきか、否か」は重要な検討事項です。労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。通常、会社の一般的な研修は全て労働時間とみなされますが、eラーニングの場合は導入方法によって異なります。
1. eラーニング実施が任意の場合
e-learningツールの視聴が労働時間に含まれるかどうかは、導入方法と受講者の選出方法により異なります。具体的に、受講者を指名し、研修の一環としてe-learningの所定動画を視聴する場合は、これを労働時間とする必要があります。これは、参加が義務付けられている、または事実上の強制がある場合です。
e-learningの視聴が労働時間外とみなされる場合は、公募制度で広く受講希望者を募り、受講者の自律的な学習の姿勢に任せる方針の場合があります。しかし、これは参加が完全に自主的であり、業務との関連性が薄く、参加しなくても業務に支障がない場合に適用されます。
参考判例においても、参加が強制されていないかどうか、実質的な強制があるかどうかがポイントです。したがって、参加が完全に自主的であり、参加しないと不利益が生じない場合は、労働時間外とみなされます。
2. eラーニング実施が強制・命令の場合
労働時間に含まれるかどうかの判断基準として、参加が強制されている場合が挙げられます。これは、会社の指示や命令に基づいて参加することが求められる場合を指します。たとえば、罰則が課せられたり、昇給や賞与に影響するなどの不利益が発生する場合、あるいは出席しなければ必要な知識やスキルが習得できない場合がこれに該当します。
逆に、参加が強制されていない場合、つまり参加がまったく自主的であり、本人に委ねられていて業務との関連性が薄い場合は、労働時間には当たりません。
労働時間に含まれるかどうかは、参加が業務上義務付けられているか、使用者の指示に基づくものであるかどうかがポイントです。会社からの義務付け(指示)に基づいて研修に参加する場合は、労働時間としてカウントされ、賃金が発生します。逆に、自由参加である場合は労働時間には該当しません。
最終的な判断は、研修の性質や実態に基づいて会社と従業員が合意する必要があります。労働時間に関する法的な規定や過去の裁判例を考慮しつつ、企業が明確な方針を策定し、従業員とのコミュニケーションを大切にすることが重要です。
◎eラーニング実施が労働時間内とみなされる場合
- 受講者を指名し、研修の一環としてe-learningの所定動画を視聴する場合
- 会社の指示や命令に基づいて参加が求められた場合
- eラーニングを参加or実施しなかった際、罰則や不利益がある場合(事実上の強制)
- 表面的には強制ではなくても、出席しないと業務に最低限必要な知識やスキルが身につかない場合(事実上の強制)
◎eラーニング実施が労働時間外とみなされる場合
- 参加が自主的であり、本人に委ねられ、業務との関連性が薄い場合
- 参加が完全に自主的であり、参加しなくても業務に支障がない場合
企業としてeラーニングを導入する際に意識すべきこと
研修(eラーニングを含む)と労働時間の関係性について理解できたところで、それぞれの場合に関して具体的にeラーニングを導入する際に意識すべきことを考えていきましょう。
1. eラーニング実施が任意の場合
eラーニングを任意で導入する場合、注意が必要です。社員に対して受講を義務化せず、学習意欲向上のサポートに焦点を当てましょう。キャリア計画の一環としてeラーニングを提供し、「業務に役に立つスキルの習得ツールとして用意している」といった説明が重要です。社員への紹介時には、受講はあくまで自由意思に基づくものであり、強制ではないことを明確に伝えましょう。労働時間に影響を与えないよう、受講が社員の自由裁量に委ねられていることを強調します。「eラーニングの受講状況と人事評価は関係ないこと」や「いつでもどこでも学習できるからといって無理しないこと」など、自由な受講を推進するためのアドバイスも行いましょう。
2.eラーニング実施が強制・命令の場合
eラーニングを労働時間に含める場合、就業時間中に受講が行われるように心がけましょう。業務時間外での受講は労働基準法の問題を引き起こす可能性があります。eラーニングシステムの管理機能を活用し、受講時間の記録や確認ができるようにすることで、労働時間の正確な把握が可能です。これにより、就業時間内に受講が行われ、不正行為が防止されるでしょう。強制的な受講であることが明確であれば、社員に対してその理由や目的を丁寧に説明しましょう。また、労働基準法に従い、割増賃金などの問題についても適切に対応します。
eラーニング実施時間に関するデータ
『デジタル化の窓口』を運営する株式会社クリエイティブバンク(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:奥村 達也)は、全国の会社員・役員1,103名を対象に、この度「社会人の学びとeラーニング」に関するアンケート調査を実施しました。アンケートの中には、「eラーニングはいつ受講していますか?」という問いも含まれています。早速その結果を見ていきましょう。
eラーニングはいつ受講していますか」という問いに対し、「業務時間内のみ」と「どちらでも受講しているが用務時間内の方が多い」を合わせると全体の7割近くが「業務時間内にeラーニングを受講する傾向にある」と判明しました。
一方で世代別にみると、50代では「業務時間外のみ受講している」「どちらでも受講しているが業務時間外の方が多い」との回答が合わせて全世代で一番多く、約2割に達しました。社会人経験を重ねているからこそ、業務時間に縛られることなく、積極的に活用している姿が覗える結果となりました。逆に20代-30代は、eラーニングの受講時間が業務時間である場合が多く、若手の頃は仕事において必要なスキルや覚えるべきことが数多くあるため、業務時間内で労働時間に含められるケースが多いことが伺える結果にもなっています。
eラーニングをより効果的に導入するためのコツ
1.受講者に適したレベル・分野のコンテンツの提供
eラーニングの効果を最大限に引き出すためには、受講者にとって適したコンテンツを提供することが不可欠です。まず、各社員のスキルや経験に合わせて、異なるレベルや分野のコースを用意しましょう。
(1)カスタマイズされた学習プランの提案
社員一人ひとりの能力や職務に合わせて、eラーニングの学習プランをカスタマイズしましょう。初級者向け、中級者向け、上級者向けなど、段階的なプランを整備して、受講者が自分のペースで成長できるようにサポートします。
(2)興味を引くトピックの導入
受講者の関心や興味を引くトピックを取り入れることで、学習へのモチベーションを高めることができます。業務に直結する実践的な内容や、将来のキャリアに関連する情報を提供することが重要です。
(3)フィードバックと調整
定期的なフィードバックを受け入れ、コースの内容や難易度を柔軟に調整しましょう。社員が理解しやすく、挫折感なく学べるように工夫することが、持続可能な学習環境の構築につながります。
2.受講者のモチベーションを維持していくこと
eラーニングの成功には、受講者のモチベーションを維持することが不可欠です。長期間にわたるeラーニングでは、受講者が継続して興味を持ち、学び続けるための仕組みが求められます。
(1)学習目標の明確化
受講者には学習の目的やゴールを明確に伝えましょう。どのようなスキルや知識が身につくのか、それが業務やキャリアにどのように貢献するのかを示すことで、学習への動機付けが向上します。
(2)ゲーミフィケーションの導入
ゲームの要素を取り入れ、学習を楽しさに変えるゲーミフィケーションは効果的な手法です。ポイントやバッジの制度、学習ランキングの設定などで競争心を刺激し、受講者が自発的に学びたいと思う環境を構築します。
(3)定期的な成果の認定
学習の成果を定期的に評価し、受講者に認定証やバッジなどの形で成果を示しましょう。これは達成感を生み出し、学習の意義を実感させる効果があります。
(4)コミュニケーションとサポート
受講者とのコミュニケーションを重視し、質問や疑問に素早く対応します。フォーラムやチャット、定期的なオンラインセッションなどを通じて、社員同士や講師との交流を促進します。
(5)挑戦と報酬
学習においては挑戦が成長を生む重要な要素です。難易度が上がる課題やプロジェクトを通じて、受講者が自己を超える経験を提供しましょう。そして、その挑戦をクリアした際には報酬や称賛を用意し、達成感を味わえるようサポートします。
(6)絶え間ない改善
受講者のフィードバックを受け入れ、システムやコンテンツを常に改善していく姿勢が大切です。変化に富んだ学習体験を提供することで、受講者が飽きずに学び続けることが期待できます。
eラーニング受講が労働時間に含まれるかどうかは、企業によるeラーニングの位置付け次第
この記事では、eラーニングが労働時間に含まれるかどうかは企業のeラーニングの位置付けにかかっていることを明確にしました。企業がeラーニングを重要な学習ツールとして位置づけ、それに対する方針を明確に定めることが、従業員との認識の一致を生み出し、納得のいく受講環境を整える手助けとなります。
eラーニングの効果を最大限に引き出すためには、企業と従業員が協力し合い、学習に対する共通の理解を築くことが不可欠です。これによって、eラーニングがより生産的で有益な時間となり、組織全体の成果に寄与することが期待されます。