倒産の危機から立て直しに成功 老舗旅館を救ったデジタル化、成功の秘訣とは?
最終更新日:2022/12/21
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目次
100年以上の歴史がある老舗旅館は、デジタル化によって倒産の危機を脱した。さらに、旅館やホテルに特化したシステムを開発し、今では全国450の宿泊施設で導入されるサービスに育った。最初に直面した壁は、旅館内にデジタル化を浸透させることの難しさだった。その壁をいかに乗り越えたのか。また、デジタル化が浸透した先には、社員の意見を取り入れたシステムのブラッシュアップと、同業者へのシステム展開という大きな可能性が開けていた。旅館の女将で代表取締役でもある宮崎氏と、サービス担当者の志村氏に話を聞いた。
立て直しをかけ、Salesforceと連携したシステムを構築
神奈川県秦野市の南東部に位置する鶴巻温泉――。この温泉地で100年以上の歴史を紡いできた老舗温泉旅館がある。関東有数の名旅館として知られる「元湯陣屋」だ。
四季折々の美しい景色が楽しめる1万坪の日本庭園や贅を尽くした料理がゲストの心をとらえて離さないこの旅館のグループ会社に、旅館やホテルに特化したシステムの販売を行う「陣屋コネクト」がある。
同社が提供する、クラウド型デジタルソリューション「陣屋コネクト」は、予約・在庫・原価などの管理機能をはじめ、現場スタッフのコミュニケーションを円滑にするSNSツールやマーケティングオートメーションツールなど、宿泊業に求められるあらゆる機能を搭載する。現在、全国450以上の宿泊施設が利用しているが、いまだ古い体質が残る宿泊業だからこそ、導入のインパクトは大きい。
そもそも陣屋コネクトは、元湯陣屋の経営改革のために開発されたものだという。いまから10年以上前、宿泊ニーズの変化やリーマンショックに起因する不況の影響を受け、元湯陣屋は倒産の危機に瀕していた。危機を脱するためには、デジタル化をベースにした業務改善が必須であった。
「当時、最も必要性を感じていたのが、スタッフ同士のコミュニケーションの改善でした。それまでは内線電話で連絡を取り合っていたのですが、それではどうしても1対1のコミュニケーションになってしまい、複数のスタッフが情報を共有するには、誰かが改めて伝えなければなりません。そうなると時間的なロスがありますし、伝達ミスも発生する――。そこで瞬時にスタッフ全員の意思疎通が図れるツールが必要だと考え、社内SNSで情報が共有できる仕組みを作ったのがデジタル化の始まりでした」
開発経緯について、このように振り返るのは、元湯陣屋の女将で、陣屋コネクトの代表取締役も兼任する宮﨑知子氏だ。
「当時は旅館内で情報を共有する仕組みがありませんでした。また、仕入れや売り上げといった、経営の根幹に関わるデータも、すぐに取り出して分析できる状態になっていませんでした。システムを導入して、データを一元管理する必要性を強く感じていました。ところが、私たち旅館業が必要とする要件を満たしつつ、予算を抑えて導入できるシステムは当時、世の中にありませんでした。『だったら自分たちで作ろう』と考えました」(宮崎氏)
ハードな旅館業をこなしながらのシステム開発。「自分たちで一から構築して、サーバーも含めて管理するのは難しいと思いました。そこで、クラウドで、カスタマイズもしやすいSalesforceをベースにしました。最初はSalesforceで提供されている機能を全部使おうと決め、売上や顧客情報の管理は既存の機能を使いました。そして、予約管理のような旅館に特化した機能を自分たちで構築していきました」(宮崎氏)
予約から売上管理まで、すべての情報をSalesforceで一元化し、徐々に全てのワークフローをシステム上で管理できるようにしていった。「接客、清掃や調理場といった各業務をすべてSalesforce上で連携させたんです。また、朝礼や夕礼、清掃の指示、引き継ぎといったコミュニケーションも、Salesforceのチャット機能であるChatter上で行うようになりました。館内に共有のPC端末を置き、接客のメンバーは全員がモバイル端末を持つようにしました」(宮崎氏)
導入効果は社内SNS運用開始直後から実感できた。
「例えば、当旅館では、会席料理を提供していますが、各客室で給仕する中居が、お客様の食事の進み方をボタン1プッシュにて逐一社内SNSに投稿します。調理場では、その内容をリアルタイムで共有しているので、お客様のタイミングにあわせて料理を準備。最適なタイミングでの提供が可能になりました。その他にも、様々なシーンでスタッフ同時の情報伝達が瞬時にできるようになり、おもてなしの質が向上しました。また、社内SNSには読み上げ機能もあるので、現場では手を動かしながら投稿内容を確認できて、重宝しています」(宮崎氏)
その後も、必要に応じて機能を追加してきた結果、陣屋コネクトは宿泊業に求められる機能を網羅するソリューションに進化した。
スタッフ全員がシステムを活用 秘訣は、やりきること
自社開発したシステムと様々な業務改善によって、元湯陣屋は10億円もの負債を抱え、倒産間近といわれた経営を2年余りで立て直した。そして、旅館による、旅館のためのシステムとして「陣屋コネクト」の展開に乗り出した。
システムの開発と導入サポートを担当するシニアカスタマーサクセスマネージャー、志村健司氏は、顧客である旅館やホテルの経営者からデジタル化の難しさを聞くことも多いという。
「システムを導入しても、スタッフ全員が使いこなせるようになるには、大きな壁があります。デジタルに慣れていないスタッフも多い中で、全員に使ってもらうには工夫が必要です。そのような相談を受けたときには、当旅館の経験をお話しします」(志村氏)
元湯陣屋でも、システムをスタッフ全員が使いこなせるようになるまでは大変だった。当時を振り返って、宮崎氏は語る。
「まずは、なぜシステムが必要なのかをスタッフに説明しました。会社のためだけではなく、スタッフにとっても、お客様にとっても意味のあることだと。そして、私自身が率先してシステムを使うようにしました。スタッフと会話をするたびに、『いまのことをSNSに投稿して、皆に共有してね』と言い続けました。さらに、なんとかシステムを使う第一歩にしてもらおうと、タイムカードの打刻や旅費の精算、稟議申請の社内申請手続きは、システムを介して行うことにしました」
やがて全てのスタッフがシステムを使いこなせるようになると、主体性がでてきて、スタッフからの働きかけが増えた。お客様からのメッセージを写真つきでアップしたり、食事時のサービスが好評だったという情報をシェアしたりと、活発なやりとりによって旅館全体のおもてなしの質が向上した。
「システムをスタッフ全員が使えるようにならないと業務改善ができないと確信していたので、強い決意でやりきりました。壁を乗り越えてシステムが浸透し、スタッフがその便利さを実感すると、どんどん改善のためのアイデアが出てきました。それがシステムのブラッシュアップにつながり、他の旅館に展開できるまでになったので、やりきってよかったと感じています」(宮崎氏)
観光地全体でデータを共有 地域一丸のマーケティングを目指して
自社の取り組みからスタートした陣屋コネクトだが、これほどまでに支持を集めるのは、宿泊現場の課題を知り尽くしている元湯陣屋が開発しているソリューションであるからだ。さらに、これまで数多くの顧客の声に真摯に向き合ってきたことも大きなポイントだ。
この点について志村氏は、「私のほかにも、導入企業様を成功に導くためのサポートを行うカスタマーサクセスマネージャーが数名いますが、それぞれがお客様から頂戴した声を集約し、数の多いものから順に改善していきます。細かいUIの変更から機能的なことまで対応してきました。直近では、非対面のチェックイン・チェックアウトができる機能を、お客様の要望で追加しました」と語る。
さて、同社では今後、陣屋コネクトをどのように展開していく考えなのだろうか?
「ちょうど、三重県の観光協会と山口県の湯田温泉で、陣屋コネクトを活用して、旅館単体ではなく、地域全体で稼ぐ力を醸成する取り組みがスタートしたところです。例えば、食材の在庫管理を地域の旅館や飲食店全体で行ったり、地域全体にマーケティング機能を持たせたりすることを考えています。今までは、観光地に訪れるお客様がどのような人なのかを把握できていませんでした。情報をデータ化している宿はまだまだ少数ですし、それを集約する仕組みがないのです。そこで陣屋コネクトを利用してもらい、地域全体でデータの収集と分析を行います。1つの施設だけではできないことも、地域の旅館やホテルが陣屋コネクトを通じてつながることによって、可能になります」(志村氏)
陣屋コネクトをご利用いただくことで、宿泊サービス業をもっと元気に、そして憧れの職業にしていきたい――こう語る宮崎氏。その語り口からは、必ずしもこの事業が利益を最優先していないことを感じさせる。では事業を進める原動力は何なのか?
「事業をやっていると世の中には理不尽なことが多いことに気づかされますが、そのような世の中を変えたいという気持ちは強いです。例えば、真面目にやっていても利益が出ない旅館が多いですが、そのような旅館がしっかりと利益を得ることができる仕組みを作っていきたいですね」(宮崎氏)
1軒の旅館の経営変革のために生まれたシステムが十数年の時を経て、世の中を変えるまでのポテンシャルを有するに至ったのである。倒産の危機を脱するためのデジタル化という小さな一歩から始まった老舗旅館の挑戦は、これからも続いていく。
陣屋コネクト
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