有給の買い取りは原則NG?可能な場合や金額の計算方法を徹底解説!
最終更新日:2023/08/17
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目次
「忙しくてなかなか有給を使えない、、」「退職日有給を消化しきれない、、」などという理由から有給を会社に買い取ってもらいたいと考える方がいるかもしれません。しかし、この「有給の買い取り」は原則的に違法とされています。
一方で、例外的に認められるケースがありますので、どのような場合にどういった方法であれば有給の買い取りが可能であるのかを知っておくことが非常に大切です。さらに、企業側にも有給の買い取りを行うことで得られるメリットがあります。
今回の記事では、有給休暇の買い取りが認められるケースや具体的な買い取り金額の計算方法、企業・労働者双方のメリットなどについて徹底解説します。
そもそも有給とは?有給の買い取りが原則NGである理由を解説
タイトル通り、企業が従業員の有給休暇を買い取る行為は原則として禁止されています。ここではそもそも有給とはなにかを確認したのちに、その買い取りが禁止である理由を説明します。
- 有給休暇とは
- 有給の買い取りは原則NGの理由
有給休暇とは
一度有給休暇制度について確認しておきましょう。有給休暇とは、その名の通り所定の休日以外に、有給で(給与をもらいながら)休める休暇のことです。
企業は、入社後6カ月間勤務し、所定労働日のうち8割以上出勤している社員に対して、有給休暇を10日与えなければならないと、労働基準法に定められています。加えて、勤続年数に応じて与えなければならない有給休暇の日数が次のとおり決められています。
- 6カ月:10労働日
- 1年6カ月:11労働日
- 2年6カ月:12労働日
- 3年6カ月:14労働日
- 4年6カ月:16労働日
- 5年6カ月:18労働日
- 6年6カ月以上:20労働日
有給の買い取りは原則NGの理由
有給の買い取りが原則禁止である理由は、ズバリ「有給制度の本来の趣旨に反するから」です。その有給制度の本来の趣旨とは、年に付与された日数を取得させて仕事を休んでもらうことで、「従業員の心身のリフレッシュを図る」ことです。ですので、会社が有給を買い取りその対価として金銭を払う行為は、すなわち従業員の休む機会を奪うことになり、「心身のリフレッシュを図る」という本来の目的を逸脱しているので、基本的に認められません。
一方で有給の買い取りが認められる場合もあるというのが事実です。次章でその点を詳しく解説します。
例外的に認められる3つのケース
前章で述べたように、従業員の有給休暇を企業が買い取る行為は原則禁止されています。しかし、あくまで「原則」であるため、例外的にこれが認められる場合があります。そこで本章では、有給の買い取りが例外的に認められる3つのケースを詳しく解説します。
- 日数が労基法の規定よりも多い場合
- 有給が失効してしまう場合
- 退職時に有給が余った場合
1.日数が労基法の規定よりも多い場合
1つ目は、会社が労働基準法で定められた有給休暇の日数より多くの有給休暇を付与している場合です。この場合、法定日数を超えた分についてのみ、買い取りが認められています。
有給制度の趣旨は労働基準法に規定された有休の日数分の範囲内で適用されるため、それを超える部分は会社と労働者間の問題となり、買い取りも行えるようになります。
2.有給が失効してしまう場合
2つ目は、「時効」で有給休暇が消滅してしまった場合です。有給休暇は付与されてから、2年間でその権利が消滅すると法律で定められています(労基法115条)。そこで、2年の間に使い切れなかった有給休暇は、買い取りが認められています。
失効した有給では「休む機会を得て、労働者の心身をリフレッシュを図る」という本来の役割を果たせないためです。
ただしここで注意すべきは、企業側の買い取りが法律に定められた義務ではない点です。そのため「失効したから買い取ってほしい」と申請しても、会社が拒否する可能性は十分に考えられます。
3.退職時に有給が余った場合
3つ目は、退職する社員の有給休暇が、退職日に未消化のまま残っている場合です。この場合も、有給休暇は退職後には行使することができない権利となるため、これを買い取ったとしても制度の趣旨に反することがありません。したがって会社は未消化の日数を買い上げることが認められています。
しかし、企業によっては買い取りはせず、「退職日を延ばす」という措置を取ることもあります。未消化の有給を買い取ってもらえるかどうかは企業次第であり、就業規則の確認や会社側との交渉が大切です。
有給の買取金額の計算方法や設定方法
ここまででどのような場合に有給の買い取りが可能であるかがわかっていただけたと思いますが、では有給1日分あたりいくらもらえるのでしょうか。本章ではその具体的な算出方法を3パターン解説します。
3パターンの計算方法
- 労働者の過去3ヵ月から算出した1日あたりの「平均賃金」
- 所定労働時間働いたときの「通常の賃金」
- 標準報酬月額の30分の1にあたる「標準報酬月額の日割額」
それぞれの計算方法は以下の通りです。
1.労働者の過去3ヵ月から算出した1日あたりの「平均賃金」
直近の過去3か月間の給料を日割りしたした金額です。以下2種類の計算方法のうち、金額の高い方を採用します。
①過去3か月の給料÷総日数
②過去3か月の給料÷過去3か月の労働日数×60%
例)過去3か月の給料が80万円、総日数が92日、労働日数が65日の場合、
①80万円÷92日=8695円、②80万円÷65日×60%=7384円→高い方の①を採用して8695円。
2.所定労働時間働いたときの「通常の賃金」
通常賃金には「日給制」、「時給制」、「月給制」の3種類がありますので、下記でそれぞれの計算方法を解説します。
・日給制
日給制の場合は、日給額分がそのまま買い取り金額となります。
例)日給1万円の場合、買い取り金額も同様に1万円。
・時給制
時給制の場合は、時給額に1日の所定労働時間をかけた金額となります。
例)時給1200円、1日の所定労働時間が8時間の場合、1200円×8時間=9600円。
・月給制
月給制の場合は、月給を1か月の労働日数で割った金額となります。
例)月給25万円、1か月の労働日数が20日の場合、25万円÷20日=12500円。
3.標準報酬月額の30分の1にあたる「標準報酬月額の日割額」
標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金の保険料を求める際に使用する基準額です。この標準報酬月額を30日で割った金額となります。
例)標準報酬月額が27万円の場合、27万円÷30日=9000円。
*この方法を採用する際には、労使協定の締結が必要です。
設定方法
上記の計算方法で算出する以外に、企業側で買取金額を一律で設定する方法もあります。前述したとおり、買い取りに関しては労働基準法に定めがないため、企業側で金額を設定して構いません。
たとえば1日あたり9,000円など会社ごとに買取金額を決めましょう。その場合、就業規則に「有給休暇1日あたりの金額9,000円」などと記載してください。
企業側・労働者側のそれぞれのメリット
実は、この有給の買い取りには企業側と労働者側の両者ともに潜在的なメリットがあります。買い取る側も買い取ってもらう側もお互いのメリットを把握しておくことでスムーズな取引が可能になるでしょう。本章ではその具体的なメリットを双方の立場から解説します。
企業側のメリット
まずは企業側が、従業員の有給休暇を買い取ることによってメリットを紹介します。
- 社会保険料の支払期間を短縮できる
- 労使間トラブルを防止できる
社会保険料の支払期間を短縮できる
従業員が退職する際に有休を買い取ることで、社会保険料の支払期間を短縮できます。通常、企業には退職する従業員が有休を消化している間も、社会保険料の支払い義務があります。ですので、有休を買い取って在職期間を減らすことができれば、社会保険料の負担が減るというメリットがあります。
例えば、1ヶ月の営業日分の有休を買い取れば、退職日は1ヶ月早まります。つまり、1ヶ月分の社会保険料を支払う必要がなくなるということです。
労使間トラブルを防止できる
有給休暇に関する労使間トラブルは、大事になりかねないためできれば避けたいものです。例えば、有給休暇を巡って裁判沙汰になってしまうと、会社のブランドイメージの低下や本来考えなくても良い業務に追われる可能性があるでしょう。しかし、退職までに有休を消化できなかった場合、労働者とのトラブルになることは少なくありません。
そこで、企業側に買い取りの選択肢があれば、労使間のトラブル発生率を大幅に軽減できると考えられます。有給の買い取り制度は、企業も労働者も納得して円満に退職してもらうためのアンサーにもなりえます。
また、すでに退職した従業員が後に会社の有給買取制度を知り、あとから買い取りを要求してトラブルになるケースもあります。企業は買い取りの可否について就業規則に明確に規定し、従業員に周知させることも重要です。
労働者側のメリット
次に、有給の買い取ってもらうことで得られる労働者側のメリットを紹介します。
- 所得税がかかりにくい
- 柔軟な働き方の実現
所得税がかかりにくい
退職時に有給休暇を会社に買い取ってもらった場合、その対価としての金銭は退職所得に該当します。そして退職金は1年あたり40万円の非課税枠があるため、場合によっては税金がかかりません。
一方で、通常の有給消化では所得税がかかります。したがって買い取ってもらうことで、基本的な方法で有給を消化するよりも高い金額を得られる可能性が高いです。
柔軟な働き方の実現
一部の従業員は個人的な事情や経済的な理由から、休暇を取得するよりもその価値を金銭的に受け取ることを優先する場面があるかもしれません。このような従業員にとって、有給休暇の買い取りは選択の幅を広げる柔軟性を提供します。
企業側・労働者側のそれぞれの注意点
有給の買い取り行為自体が原則的に禁止されている以上、おのずと注意すべきこともいくつか発生します。うっかりしていていて法令違反を犯してしまったということがないよう、以下に述べる注意事項をしっかりと頭に入れておきましょう。
企業側の注意点
有給の買い取りに際して企業が注意すべき点を3つ説明します。
- 買い取りは企業の義務ではない
- 買い上げの予約は違法
- 有給休暇買取は「賞与」
買い取りは企業の義務ではない
有給の買い取りについて定めた法律や条文などは一切ありません。すなわち、もともと有給休暇の買取は企業の義務ではありません。ですので、上記の3つのケースのいずれかに当てはまっているからと言って、会社は労働者側の申請に応じて有給の買い取りを行わなくてもよいのです。
上記の認められる3つのケースのいずれかに該当する社員が有給の買い取りを求めてきた際には、企業側のメリットや社員とのトラブルが起こる可能性などを十分に考慮しつつ、買い取る/買い取らないの判断をするべきでしょう。
ただし、就業規則に有給の買い取りについての明確な記載がある場合にはそれに従わなくてはなりません。
買い上げの予約は違法
事前に労働者に有給を買い取る約束をすることは例外なく禁止です。例えば、6日ある有給休暇のうち2日分を先に買い取って、実質4日しか与えないといった行為が買い取りの予約とみなされます。
有給休暇の買い取りが認められる場合は、あくまで退職や時効などにより有給休暇を取る必要性がなくなるからです。しかし、買い取りの予約をすることによりあらかじめ有給休暇の取得が制限されると、労働者が十分な休息を取れなくなってしまうため禁止されています。
当然、買い取りを予約したうえで、本来与えるべき有給を減らしたり、または与えなかったりなどの行為は労働基準法違法となります。
有給休暇買取は「賞与」
有給を買い取った対価としての代金は、給料としては扱えないので賞与として計上します。そのため給与明細とは別に賞与明細が必要となります。
さらに、企業は賞与支払届の提出義務があることにも注意しなければなりません。管轄の年金事務所や事務センターなどへ支給日から5日以内に提出する必要があります。郵送以外に日本年金機構のホームページで電子申請も可能です。
労働者側の注意点
有給を企業に買い取ってもらおうとする際に、従業員が注意すべきことを2点説明します。
- 買い取り可能の条件を満たしていても会社から拒否されることがある
- 就業規則の確認が必須
買い取り可能の条件を満たしていても会社から拒否されることがある
企業側でも述べましたが、会社には有給を買い取る法的な義務がありません。
そのため、買い取りの条件を満たしていることを理由に有給の買い取りを会社に求めても、会社が拒否した場合は有給を買い取ってもらうことができません。したがって、有給の買い取りをしてもらうためには、会社とうまく交渉をしていくことが必要になります。
一方で、会社の就業規則などで、有給の買い取り制度が規定されている場合には、会社に有給休暇買い取り義務が生じることもあります。
就業規則の確認が必須
有給休暇の買い取りを希望する場合は、まず就業規則を確認しましょう。というのも、有給休暇の扱いについては法的な根拠がなく、企業のルールが優先されるためです。有給休暇の買い取りが就業規則上で正式に許可されている場合は、確実に有給休暇を買い取ってもらえるでしょう。
ただし、買い取りの条件が決まっている場合もあるので、その詳細を確認することが大切です。手続き方法も明記されているのであれば、指定された方法で申請することも必要があります。
一方で有給休暇の買い取りについて特に記載がない場合は、買い取りを拒否される可能性も十分にあります。この場合は、戦略的な交渉が必要です。のちの章で交渉のコツについて解説します。
想定されるトラブルとその対処法
有給休暇の買い取りに際しては、企業側と労働者側のトラブルが頻繁に発生します。そのため、あらかじめトラブルの性質を把握し、予防策を打つことが重要です。本章では、どのようなトラブルが起きるのか、そしてそれらをどのように対処すべきかについて解説します。
- 買取の可否についてのトラブルと対策
- 買取金額に関するトラブル
- 税法上のトラブル
買取の可否についてのトラブルと対策
有給休暇の買い取りの可否について、就業規則に規定がないと企業側と労働者側の協議が難航するでしょう。その場合、たしかに企業側に買い取り義務はないため拒否しても問題はありませんが、労働者側の不満を募ることが予想され、企業のブランドイメージの低下につながりかねません。
このようなトラブルを避けるために、就業規則に有給の買い取りの可否について明記するべきでしょう。
また、企業側が有給休暇の買い取りを一度は認めたのにもかかわらず、いざその時になったら「そのような許可をした覚えがない」として買い取りに応じないといった、いわゆる「言った、言っていないトラブル」が起こる可能性もあります。これを防ぐためには、あらかじめ有給休暇の買い取りに関する合意書を締結し、保存しておくことが大切です。
買取金額に関するトラブル
有給休暇の買い取り金額については、法律上の定めがありません。そのため、企業は自社の基準に沿って有給休暇の買い取り金額を決定できます。
しかし、買い取り金額を有給休暇消化時の給与よりも低く設定した場合、金額が原因でトラブルに発展することが考えられます。
そのため、双方が納得する明瞭な計算に基づいて買い取り金額を決定しましょう。正しい計算方法については上述しておりますので、そちらを参考にしてください。
税法上のトラブル
有給休暇を買い取るときは、税務処理を間違えるトラブルが起きやすいです。そのため企業は、買い取った有給の税法上の扱いを理解しておく必要があります。
有給休暇の買い取りが退職に伴う場合は、退職することに起因して支払われる賃金であると分類できるため、「退職所得」扱いになります。このほかのケースの場合は、「給与所得」扱いになります。本来は有給休暇の消化時に支払う給与であったことを考えると、納得しやすいでしょう。
また、企業側の把握にとどまるのではなく、従業員にもあらかじめこのことを周知しておくことで、混乱が生じにくくなります。
有給休暇を買い取ってもらうには?交渉のコツも解説!
上述したように有給休暇の買い取りは企業側の義務ではないため、交渉が必要なケースがあります。しかし、やみくもに「買い取ってほしい」と主張してしまっては相手の心証を悪くしてしまうことになりかねません。本章では有給の買い取りが実現しやすい場合や交渉時のコツについて解説します。
- 円満退職ができる場合には買い取ってもらいやすい
- 会社側にもメリットがあることを伝えると交渉がスムーズに
円満退職ができる場合には買い取ってもらいやすい
退職時に残してしまった有給を買い取ってもらいたいとき、円満な退職ができる場合であれば交渉が成功する可能性が高まるといえます。
そこで、円満な退職を導く要素としては、例えば「在職中の勤務態度が良好である」、「突然の退職ではなく、会社の規定にのっとり、十分に期間をとって退職をする」、「引き継ぎなどをきちんと行い、会社の業務に影響を与えない」といったことが挙げられます。したがって、退職に際して会社に悪いイメージを与えないように細心の注意を払うことが大切です。
会社側にもメリットがあることを伝えると交渉がスムーズに
交渉を成功させるためのコツとして、有給休暇の買い取りには会社にもメリットがあることを上手に伝えましょう。そのためにはメリットの具体的な内容を知る必要がありますので、上述した「企業側のメリット」を確認してしっかり理解しておきましょう。
ルールを確認してWin-Winな有給の買い取りを実現しましょう
有給休暇の買い取りは原則禁止ですが、例外的に認められるケースがあります。そのため、どういった場合にどういった方法であれば認められるのかを把握することが必須です。会社側は有給の買い取りについてを就業規則に明確に記載し、労働者側はそれをしっかり確認することでトラブルを未然に防ぎましょう。
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