みなさまは、勤怠をどのように管理されているでしょうか。一昔前では、官公庁などは出退勤簿に印鑑を押印して管理しているところもありました。
また、タイムカードで出退勤管理しているところは今も昔も変わらずにあるのではないでしょうか。しかし、時代の流れとともに出退勤管理にも変化が求められています。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点より、政府はテレワークなどを推奨しているところです。
さらに、長時間労働を抑制してライフワークバランスを適切に保つことを目的とした働き方改革なども推進されている現状にあります。これらの背景があることから、今一度「なぜ勤怠管理が必要なのか」を改めて認識し直す必要があるのです。
本記事では、そのような背景を踏まえて勤怠管理の概念や勤怠管理がなぜ必要なのか等について詳しく解説します。
勤怠管理とは
勤怠管理とは、会社の担当者の出退勤状況・休暇取得状況・超過勤務状況などさまざま状況を担当者単位で把握することを目的としています。担当者単位で就業状況を適切に把握することを目的としているのが、勤怠管理なのです。
勤怠管理が求められる理由とは
会社は、組織として成り立っています。そのため、会社では「雇用者」と「労働者」に大きく分類することができるのです。前提論として、人を雇用する立場にある雇用者はたくさんの責任を負わなければならないのです。雇用者と労働者との間には「労働契約」が締結されており、労働者が雇用者に対して労務を供給したのであれば、雇用者は労働者に対して賃金を支払わなければなりません。雇用者は労働者へと労働の対価として賃金支払の義務が発生することは当然ですが、それ以外にも雇用者は労働者に対してたくさんの責任を負っているのです。
具体的には、雇用者は労働関係法規を遵守する必要があり、その中には労働基準法が含まれています。労働基準法の上位には、憲法25条1項(生存権)および憲法27条2項(勤労条件の基準)が効力を発生させており、これらの憲法を具体的に法律化したものが労働基準法なのです。
労働基準法では、生活の保障・業務災害の補償・安全と健康への配慮などが定められています。それらによって、労働者が荷重労働を強いられないように適切な労働時間の管理も雇用者の責務に含まれているのです。このように、労働基準法の真意とは「労働者の保護」を目的とした法律であることが伺えます。
なお、労働基準法で定められているのは、あくまで労働条件に関する最低限の基準であることから、労働基準法で定められていることのみクリアしていれば良いというものではありません。そのため、労働基準法で定義づけられている基準を上回るよう雇用者は努めなければならなず、労働者のさらなる労働環境改善を図る必要があるのです。労働基準法において、労働時間とは1日8時間ならびに1週間で40時間を超えて労働させてはならないと定義づけられています。
また、時間外労働に伴う超過勤務も限度が設定されています。これらのことにより、適切な勤怠管理が求められているのです。ここからは昨今では政府が推奨している「働き方改革」について詳しく説明します。
働き方改革とは
日本では、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
それらを背景として、働き方改革実現会議では、総理が自ら議長となり労働界と産業界のトップと有識者が集まって、これまでよりレベルを上げて議論する場として、平成28年9月に設置されました。働き方改革実行計画(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)はその議論の成果であり、働く方の実態を最もよく知っている労働側と使用者側、さらには他の有識者も含め合意形成をしたものです。本実行計画では、同一労働同一賃金に関する法改正の方向性等が示されています。
このように、働き方改革はさまざまな課題解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。なお、働き方改革で推進されている勤務形態や労働時間などの具体的な内容は、次のとおりです。
【労働時間法制の見直し】
「働き過ぎ」を防ぎながら、「ワーク・ライフ・バランス」と「多様で柔軟な働き方」を実現します。長時間労働をなくし、年次有給休暇を取得しやすくすること等によって、個々の事情にあった多様なワーク・ライフ・バランスの実現を目指します。また、働き過ぎを防いで健康を守る措置をしたうえで、自律的で創造的な働き方を希望する方々のための新たな制度作りをしています。
なお、具体的な見直し内容は次のとおりです。
- 残業時間の上限規制
- 「勤務間インターバル」制度の導入推進
- 1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得の義務付け
- 月60時間を超える残業は、割増賃金率を引上げ(従来の「25%割増し」を「50%割増し」に引き上げ)
- 労働時間の状況を客観的に把握の義務付け
- 「フレックスタイム制」により働きやすくするため、制度を拡充
- 専門的な職業の方の自律的で創造的な働き方である 「高度プロフェッショナル制度」を新設し、選択可能とする
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。月45時間は1日当たり2時間程度の残業に相当します。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)・月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできません。月80時間は、1日当たり4時間程度の残業に相当します。
また、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までとなっています。労働時間の状況を客観的に把握することが義務付けられていますので、健康管理の観点から裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての人の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握する必要があります。
さらに、「労働安全衛生法」に基づいて、残業が一定時間を超えた労働者から申出があった場合、使用者は医師による面接指導を実施する義務があります。そのため、労働時間の状況を客観的に把握することで長時間働いた労働者に対する、医師による面接指導を実施しなければならないのです。
なお、上述した内容も含めて働き方改革関連法案の基準を逸脱すると、厚生労働省から違反した企業名が公開されますので、公開されるリスクを避けるためにも最新の法令を正しく理解する必要があります。これらを踏まえて、適切な勤怠管理を行う必要があると言えるのです。
勤怠管理の具体的な内容について
勤怠管理では、労働者のさまざまな情報を適切に管理しなければなりません。ここからは、具体的な管理項目について詳しく解説します。
出退勤時刻
勤怠管理の基本は、労働者の出勤時刻および退勤時刻を勤務日単位で記録することです。
また、その管理は労働者全体ではなく労働者個人単位で記録しなければなりません。出退勤時刻の概念は、労働場所に来た時刻ではありません。あくまで、「労働」が始まった時刻と終わった時刻を適切に記録しなければならないのです。なお、個人の諸事情によっては遅刻・早退・中抜けなどが発生するケースがありますので、それらについても適切に記録しておく必要があります。
労働時間
労働時間とは、雇用者の指揮命令下において労働者が雇われている会社のために労働している時間のことを指します。会社において在籍している時間の中には休憩時間も含まれていますが、あくまで休憩時間は労働時間に含まれません。
一方、会社で指定されている作業着や制服への着替えおよび仕事の内容に密接に関連している研修などへの参加を要請された場合は、労働時間に含まれます。上述したように、労働時間は労働基準法によって上限時間が定義づけられていますので、雇用者は法令遵守しなければなりません。
また、労働時間は1分単位で記録する必要があることから、端数の考え方によっては労働者に不利となる条件設定を会社の社則で決めている場合は違法となるケースがあるため注意が必要です。
休憩時間
労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間の休憩時間を労働者に取得させなければなりません。休憩時間は、労働者が労働から完全に離脱している必要がありますので、良くある事例として昼休憩中の電話待機などは「手待ち時間」に該当することから、休憩時間に含まれないため注意が必要です。
超過勤務時間
定められている基本的な労働時間とは、1日8時間ならびに週40時間です。その労働時間を超えて労働をした場合は、超過勤務時間に該当します。いわゆる「残業」に該当するものであり、時間外労働時間には定められた割増率を乗じて割増された賃金の支払いが必要となります。なお、月当たりの合計超過勤務時間で管理するのではなく、労働日ごとに超過勤務時間がどれだけあったのかを適切に管理しなければなりません。
深夜労働時間
深夜労働時間に該当するのは、22時~5時の時間帯となります。深夜労働においても、時間外労働と同様に割増率を乗じて割増しされた賃金の支払いが必要となります。なお、時間外労働が22時~5時の深夜労働時間に発生した場合は通常の割増率よりもさらに割増しされた率を乗じた賃金の支払いが必要となりますので注意が必要です。
休日勤務時間
休日勤務時間とは、法律で定められている休日に労働を行った時間です。法律で定められている休日とは、労働基準法で定義付けされている労働者に取得させなければならない休日であり、1週間に1日もしくは4週を通じて4日となっています。なお、法律で定められている休日に労働発生した場合においても割増率を乗じて割増された賃金の支払いが必要となります。
欠勤日数
労働者が休暇および休業ではなく、体調不良等で労働が困難であった日は欠勤扱いとなります。体調不良などの場合においては、労働者が持ち得ている年次有給休暇を活用するケースが多くなっていますが、諸事情により年次有給休暇を使い果たしている場合において労働が困難となった日については欠勤扱いとなるため、適切に管理する必要があります。
年次有給休暇日数
上述したように、労働者の労働に関する情報を適切に管理する必要がありますが、勤怠管理では労働者単位で年次有給休暇の取得状況などについても管理する必要があります。労働基準法では、労働者に対して何日間の有給休暇をどのタイミングで付与して、何月何日に取得したのかを管理帳簿に記載したうえで3年間保管しなくてはならないと定義づけられています。
勤怠管理を行う方法とメリットとデメリットについて
上述したように、労働基準法によって雇用者は労働者の勤怠情報を適切に管理する必要があります。
また、働き方改革などを推進するためには現状を適切に把握していなければ改革を推進することは困難であることから、それらの観点からも勤怠管理は適切に行われていなければならないのです。勤怠管理を適切に行うためには、さまざまな方法があります。
さらに、方法によってそれぞれのメリットとデメリットがあることも正しく理解しなければなりません。ここからは、勤怠管理を行う方法とそれぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
紙
アナログ的な手法ではありますが、労働者が出勤および退勤した時間を任意の様式に手書きで記載してもらう方法です。
メリット
紙ベースの勤怠管理であるため、導入に際して準備しなければならないのは紙と鉛筆だけです。そのため、勤怠管理の導入スピードは極めて速いと言えるでしょう。
また、勤怠管理を導入するときに発生するイニシャルコストもほとんど発生しないところがポイントです。複雑なシステムではないため、老若男女を問わず誰でも運用することができ、勤怠管理導入時における説明などもほとんど必要ありません。エクセルやワードなどで一度様式を作成してしまえば、継続的にその様式を流用することができるため事務作業もほとんど発生しないのも嬉しいポイントです。
デメリット
勤怠管理は、単純に記録をしているだけでは意味がありません。毎月単位で集計を行い、それらを適切に管理しなければならないのです。紙ベースの勤怠管理であるため、これらの集計は手作業で実施しなければなりません。そのため、集計作業は地道な事務作業となりますので時間を要します。
また、集計作業は人の手によって行われるためどうしてもヒューマンエラーのリスクが高くなってしまいます。転記ミスが発生するケースを想定すると、正確な出退勤時間が把握ができなくなってしまうのです。そのため、どうしても集計に要する事務作業を伴う人件費が発生してしまうため、多額のランニングコストが発生します。労働基準法において3年間の帳簿を保存しなければならない義務がありますので、出勤簿を適切に保管すためのコストも視野に入れておかなければなりません。勤怠管理の集計に伴うヒューマンエラーは上述したとおりですが、出退勤簿に手書きをする労働者が虚偽の時間を記入するリスクもあります
さらに、原則的には労働者本人が出退勤簿に手書きで書くべきですが、悪質的に他の労働者に出退勤の記述をお願いして記入しているケースも想定しなければなりません。そのため、手書きの出退勤簿では労働者のモラルや誠実性に依存しているところが大きいため、不正申告のリスクが非常に大きく内包されている管理方法であることを理解しなければならないのです。別の側面では、紙ベースの出勤簿を活用した勤怠管理は自己申告に基づくものが大原則です。
そのため、労働基準法で定義づけられている「客観的方法による労働時間の把握」に該当するものではありません。紙の出勤簿で勤怠管理を行うケースでは、労働者に対して正しい記録や適正に自己申告するよう求めることや雇用者が労働者に対して本質的な意味合いも含めて十分な説明を行う必要があるのです。実際の労働時間と出退勤簿に手書きされている出退勤時間に乖離が発生していないのかどうかについての実態調査の実施が雇用者に求められます。
エクセル
現代のパソコンにはほとんど標準搭載されているエクセルを活用した勤怠管理です。この方法では、労働者が出退勤時刻や休暇取得などの情報をエクセルを活用して入力します。
メリット
勤怠管理に関わる大規模システムなどを導入しなくても、手軽に勤怠管理を導入できるのがポイントです。エクセルに最初から組み込まれている出退勤簿のテンプレートなどを活用することで、様式作成に要する事務作業を省略できるところも魅力の1つと言えるのではないでしょうか。
また、インターネットに接続している端末であれば、外部より出退勤簿の様式をダウンロードして活用することも可能です。労働者は、定められた様式にキーボードで入力するだけですのでパソコン操作が苦手な従業員が在籍している場合でも運用するためのハードルは低いため勤怠管理の導入はスムーズに行うことができるでしょう。
デメリット
エクセルに最初から組み込まれている出退勤簿のテンプレートやインターネットを活用してダウンロードした様式では、勤怠管理を導入する会社の就業形態に適合していないケースがあります。そのため、上述した様式が本当に自社の就業形態に適合しているのかどうかを見定めなければなりません。なお、適合していないようであれば、自社の就業形態に適合した様式を作成しなければなりません。
また、紙ベースの勤怠管理ではありませんが労働者が直接勤怠情報を記載すると言った原則は変わっていません。そのため、エクセルの出退勤簿では労働者のモラルや誠実性に依存しているところが大きいため、不正申告のリスクが非常に大きく内包されている管理方法であることを理解しなければならないのです。
さらに、エクセルによる勤怠管理は「自己申告制」とみなされるため、労働基準法で定義づけられている「客観的方法による労働時間の把握」に該当するものではありません。
タイムカード
タイムカード打刻を活用して行う勤怠管理です。労働者が出勤および退勤する際に、タイムレコーダーにタイムカードを差し込み打刻します。
メリット
タイムレコーダーを購入に伴うイニシャルコストは、タイムレコーダーそのものがあまり効果ではないため、費用をかけずに導入できることが大きなメリットです。
デメリット
タイムカードを活用した勤怠管理では、打刻方法が限定的となってしまいます。そのため、会社外での業務がメインとなる業種における直行および直帰に対応することができません。
また、昨今では在宅勤務などが普及していることからそれらにも対応することは難しいでしょう。なお、タイムカードだけでは年次有給休暇などの管理が行えないため、他の方法で管理することを検討しなければなりません。
勤怠管理システム
昨今では、勤怠管理システムの普及が目立っています。勤怠管理システムは多種多様な勤務形態などにも対応できる優れたものが多くなっています。
メリット
労働者は、ICカードやスマホを活用した多種多様な打刻方法が可能となります。また、申請および承認などの手続きもワンクリックで可能となるなど、事務手続きが簡略化されることにより業務負担の軽減に繋がります。さらに、雇用者は労働者の出退勤情報をリアルタイムで把握することができます。
デメリット
勤怠管理システムの種類によっては、導入時のイニシャルコストが多額となってしまうケースがあります。
また、クラウドタイプなどでは導入時のイニシャルコストが必要ないものもありますが月額使用料などのランニングコストが発生するため、勤怠管理システムの導入を続ける限りランニングコストが発生し続けてしまいます。
勤怠管理方法を選ぶポイントとは
労働基準法では、「客観的方法による労働時間の把握」が定義づけられています。そのため、労働者を含めた会社規模・雇用形態など多種多様な要件を考慮して、自社および労働者に最適な管理方法を選択することが重要なのです。勤怠管理を導入する際は次のポイントが重要となります。
- 打刻忘れおよび打刻ミスを未然に防止することが可能であり、労働者が使用しやすいものか
- 給与計算への反映および勤怠データの集計などが担当者の業務負担とならないか
- 労働者数および雇用形態などを考慮して、自社の雇用状況に適応しているか
これらを念頭に置き、イニシャルコストとランニングコストにも注意を払いながら勤怠管理を導入するようにしましょう。
時代に合った勤怠管理を行いましょう
ここまで、勤怠管理の概念や勤怠管理がなぜ必要なのか等について解説しました。勤怠管理とは、雇用者が労働者の状況を適切に管理するため労働基準法によって定められています。昨今では、働き方改革やライフワークバランスが重要視されていることから、さまざまな働き方に対応できる柔軟な勤怠管理方法が求められているのです。そのため、自社に適合しており今後の時代の流れにも柔軟に対応できる勤怠管理を導入するようにしましょう。